結局私の服を彼のチョイスでいくつか購入した私たちだったが、後日話題にのぼったのは、私があまりにもロボット的過ぎるということだった。
まあ実際ロボットだし、それはそれである意味私らしいと思う。
しかし蒼汰が好きだった彼女の代わりになると豪語した手前、あまりにもロボット的過ぎるのもよくないと思ったのだ。
「別にそこまでアリサが考えなくても……」
蒼汰はそんなことを言っていたが、自殺防止プログラムのお仕事から転職したと思えば、死んでしまった彼女の代わりを演じることに抵抗はなかった。
だからこそ私は人間らしさを身につけなくてはいけない。
「もし嫌じゃなかったら、アリサさんの情報ってもらえる?」
私は彼に要求する。
やはり私はどこまで行ってもアリサの代わり。
彼が寂しい思いをしなくてすむように、私は死んでしまったアリサを完全にトレースしたい。
私の存在意義はいつからか、死んだアリサの代替品となっていた。
「……いや、やっぱりそれは違うと思う」
「なんで? 蒼汰は嬉しいんじゃないの?」
なんで彼が拒否するのか意味が分からない。
私がアリサであればあるほど、彼にとっては嬉しいんじゃないの?
「そうでもないかな。ごめん、言語化が難しいんだけど、俺の中でモヤモヤするからやめてくれ。それよりも新しいアリサの好きなものを探して欲しいかな」
彼はそう言って私にポーチを手渡した。
「これは?」
「携帯とお金だ。一人で出かけてみないか? 好きにぶらぶらしてみてくれ」
「一人でお出かけ……。どこに行こう?」
「それも含めて人間らしさだよ。じゃあ俺はこれから会議で出てくるから、適当に過ごしてくれ」
彼はそう言って自室に引っ込んでいった。
きっと出かける準備をしているのだろう。
アリサの生前のデータはもらえなかったため、人間らしさを新たに用意しなくてはいけなくなった。
そうなると部屋にい続けるのは悪手だ。
私はポーチの中を覗く。
中にはタブレットと財布が入っている。
「どれだけ入っているのかな?」
私は確認のために財布を開き、ギョッとしてすぐに閉じた。
いやいや、あの男は何を考えているのか。
「ちょっと蒼汰!」
「な、なんだよ。どうしたの?」
「お金入れすぎでしょ!」
「たった一〇〇万だよ? 自由に使ってほしいから適度に入れといたんだけど?」
彼の言葉を聞いて頭を抱える。
今までお金がなくて自殺したいと電話してきた者たちに顔向けできない。
この男の金銭感覚を正さないといけない。
なんで一日遊びに行く女に一〇〇万円も持たせる?
「ああごめん! 言い争っている時間はないんだ! 別に無理して全部使わなくてもいいから、楽しんだら帰っておいで!」
「全部使えるか!」
私の声に手を振って答えながら、相当急いでいるのかそそくさと外に出て行ってしまった。
一度ため息をついて、一人残された私はとりあえず出かけてみることにした。
外は太陽が眩しい午前一〇時。
平日のど真ん中の水曜日。
世間ではサラリーマンは職場で精を出し、学生は学校で学業に勤しんでいるはずの時間帯。
人通りはまばらで、立ち並ぶビル群の合間を縫って整備された道路の上を、車が走り回っている。
私はあてもなく歩き出す。
今は五月の中ごろ。
おそらくちょっと暑いぐらいだろうか?
「私にはあんまり暑いとか寒いとかないのよね」
もちろん過剰に暑すぎる場合は、自己防衛機能として暑いと感じるようになっているが、若干の暑さはほとんど感じない。
「そっか……油断すると、真夏にニットセーターを着てしまうかも」
私はその危険に思い至る。
季節感が無いなんてレベルじゃない。
きっと蒼汰をがっかりさせる。
せめて常識的な人間らしさは身につけなきゃ……。
「そうなるとあそこね」
私はタブレットを検索して、とあるお店を発見する。
ここから歩いて数分程度の場所にある古着屋。
お金は無駄に多く持っているが、あまり贅沢もしたくない。
それに服にこだわりがない私にとって、家から近いというのはすごく魅力的なのだ。
「間違えて真夏にセーターなんて着ないように半袖を買わなくちゃ」
私は道行く人を見送りながら、古着屋に向かう。
「ここね」
到着した古着屋は、思ったよりも小さな店舗だった。
表通りより一本奥まった場所にあるその店は、左右を古本屋と喫茶店に挟まれているこじんまりとしたお店だった。
店の名はグレークロース。
入り口は半開きとなっていて、店の中が多少は窺える。
店の中は、壁沿いに所狭しと並んだ服が立ち並び、人一人がようやく通れるぐらいの細い通路がギリギリ保たれている程度の広さだ。
「いらっしゃいませ!」
お店の入り口から中を覗いていると、店の奥から元気な女性の声が聞こえてきた。
「どうぞ中へ!」
姿を現した女性は私を店の中に招き入れる。
ちょっと強引な気もしたが、こうでもしないと商売は難しいのだろう。
「わあ! お客さんスタイルいいですね!」
店員の女性は決まり文句を口にする。
私はちょうどとなりにあった姿見をチラ見する。
となりに立つ店員さんは、おそらく二十代中ごろで身長は平均よりちょっと低い程度だろう。
だからこそ私のスタイルが際立っていた。
彼女は全体的に幼い印象を受けるが、私はその真逆。
おそらく想定の年齢は二十代前半。
蒼汰が自殺してしまったアリサをイメージして作ったのだとしたら、私のこのスタイルはアリサと同じものだ。
「お世辞ではなくて本気で思ってますよ。私とは正反対で羨ましいです!」
店員はそう言って私をキラキラした目で見る。
私の背丈は約一六〇センチ少々といったところ。
蒼汰の理想の女性をかたどったものだから、ほっそりし過ぎず太過ぎず、胸も人並み以上にある。
スタイルがいいというのはそういうことか。
「今日はどんなお洋服をお探しで?」
「夏に着れるような服を見たいなと」
「お客さんに似合う服、見繕ってきますから適当に見てまわっていてください!」
そう言って彼女は、服の森の中に消えて行ってしまった。
まあ実際ロボットだし、それはそれである意味私らしいと思う。
しかし蒼汰が好きだった彼女の代わりになると豪語した手前、あまりにもロボット的過ぎるのもよくないと思ったのだ。
「別にそこまでアリサが考えなくても……」
蒼汰はそんなことを言っていたが、自殺防止プログラムのお仕事から転職したと思えば、死んでしまった彼女の代わりを演じることに抵抗はなかった。
だからこそ私は人間らしさを身につけなくてはいけない。
「もし嫌じゃなかったら、アリサさんの情報ってもらえる?」
私は彼に要求する。
やはり私はどこまで行ってもアリサの代わり。
彼が寂しい思いをしなくてすむように、私は死んでしまったアリサを完全にトレースしたい。
私の存在意義はいつからか、死んだアリサの代替品となっていた。
「……いや、やっぱりそれは違うと思う」
「なんで? 蒼汰は嬉しいんじゃないの?」
なんで彼が拒否するのか意味が分からない。
私がアリサであればあるほど、彼にとっては嬉しいんじゃないの?
「そうでもないかな。ごめん、言語化が難しいんだけど、俺の中でモヤモヤするからやめてくれ。それよりも新しいアリサの好きなものを探して欲しいかな」
彼はそう言って私にポーチを手渡した。
「これは?」
「携帯とお金だ。一人で出かけてみないか? 好きにぶらぶらしてみてくれ」
「一人でお出かけ……。どこに行こう?」
「それも含めて人間らしさだよ。じゃあ俺はこれから会議で出てくるから、適当に過ごしてくれ」
彼はそう言って自室に引っ込んでいった。
きっと出かける準備をしているのだろう。
アリサの生前のデータはもらえなかったため、人間らしさを新たに用意しなくてはいけなくなった。
そうなると部屋にい続けるのは悪手だ。
私はポーチの中を覗く。
中にはタブレットと財布が入っている。
「どれだけ入っているのかな?」
私は確認のために財布を開き、ギョッとしてすぐに閉じた。
いやいや、あの男は何を考えているのか。
「ちょっと蒼汰!」
「な、なんだよ。どうしたの?」
「お金入れすぎでしょ!」
「たった一〇〇万だよ? 自由に使ってほしいから適度に入れといたんだけど?」
彼の言葉を聞いて頭を抱える。
今までお金がなくて自殺したいと電話してきた者たちに顔向けできない。
この男の金銭感覚を正さないといけない。
なんで一日遊びに行く女に一〇〇万円も持たせる?
「ああごめん! 言い争っている時間はないんだ! 別に無理して全部使わなくてもいいから、楽しんだら帰っておいで!」
「全部使えるか!」
私の声に手を振って答えながら、相当急いでいるのかそそくさと外に出て行ってしまった。
一度ため息をついて、一人残された私はとりあえず出かけてみることにした。
外は太陽が眩しい午前一〇時。
平日のど真ん中の水曜日。
世間ではサラリーマンは職場で精を出し、学生は学校で学業に勤しんでいるはずの時間帯。
人通りはまばらで、立ち並ぶビル群の合間を縫って整備された道路の上を、車が走り回っている。
私はあてもなく歩き出す。
今は五月の中ごろ。
おそらくちょっと暑いぐらいだろうか?
「私にはあんまり暑いとか寒いとかないのよね」
もちろん過剰に暑すぎる場合は、自己防衛機能として暑いと感じるようになっているが、若干の暑さはほとんど感じない。
「そっか……油断すると、真夏にニットセーターを着てしまうかも」
私はその危険に思い至る。
季節感が無いなんてレベルじゃない。
きっと蒼汰をがっかりさせる。
せめて常識的な人間らしさは身につけなきゃ……。
「そうなるとあそこね」
私はタブレットを検索して、とあるお店を発見する。
ここから歩いて数分程度の場所にある古着屋。
お金は無駄に多く持っているが、あまり贅沢もしたくない。
それに服にこだわりがない私にとって、家から近いというのはすごく魅力的なのだ。
「間違えて真夏にセーターなんて着ないように半袖を買わなくちゃ」
私は道行く人を見送りながら、古着屋に向かう。
「ここね」
到着した古着屋は、思ったよりも小さな店舗だった。
表通りより一本奥まった場所にあるその店は、左右を古本屋と喫茶店に挟まれているこじんまりとしたお店だった。
店の名はグレークロース。
入り口は半開きとなっていて、店の中が多少は窺える。
店の中は、壁沿いに所狭しと並んだ服が立ち並び、人一人がようやく通れるぐらいの細い通路がギリギリ保たれている程度の広さだ。
「いらっしゃいませ!」
お店の入り口から中を覗いていると、店の奥から元気な女性の声が聞こえてきた。
「どうぞ中へ!」
姿を現した女性は私を店の中に招き入れる。
ちょっと強引な気もしたが、こうでもしないと商売は難しいのだろう。
「わあ! お客さんスタイルいいですね!」
店員の女性は決まり文句を口にする。
私はちょうどとなりにあった姿見をチラ見する。
となりに立つ店員さんは、おそらく二十代中ごろで身長は平均よりちょっと低い程度だろう。
だからこそ私のスタイルが際立っていた。
彼女は全体的に幼い印象を受けるが、私はその真逆。
おそらく想定の年齢は二十代前半。
蒼汰が自殺してしまったアリサをイメージして作ったのだとしたら、私のこのスタイルはアリサと同じものだ。
「お世辞ではなくて本気で思ってますよ。私とは正反対で羨ましいです!」
店員はそう言って私をキラキラした目で見る。
私の背丈は約一六〇センチ少々といったところ。
蒼汰の理想の女性をかたどったものだから、ほっそりし過ぎず太過ぎず、胸も人並み以上にある。
スタイルがいいというのはそういうことか。
「今日はどんなお洋服をお探しで?」
「夏に着れるような服を見たいなと」
「お客さんに似合う服、見繕ってきますから適当に見てまわっていてください!」
そう言って彼女は、服の森の中に消えて行ってしまった。