うっすらと意識が戻ってきた。
ここはどこだろう?
私はどれだけの時間眠っていたのだろう?
というより、私は一体なにをされた?
徐々に意識が戻ってくると同時に、意識を失う前の瞬間を思い出す。
確か二人を送り出してからインターホンが鳴って、ドアを開けたら……。
そこまで思い出すと体が震える。
そうだった。
武装した男三人に襲われたんだ。
目を開けてみたが、案の定目隠しがされていて何も見えなかった。
体を動かそうにも、足は縛られていて、手も金属か何かで固定されているようだ。
完全なる監禁状態。
そして私が意識を失う前に聞いた「これで影井蒼汰も終わりだな」という言葉。
狙いは蒼汰で、私は人質。
推測は簡単だった。
蒼汰が狙われる理由は分からない。
誰かに恨みを買うような仕事ではないし……。
いやいや、該当する理由が一つだけあるじゃないか。
自殺防止プログラムの存在だ。
国は蒼汰の復讐を恐れるあまり、朝比奈さんを通じてアリサの思考パターンを私に植えつけたり、それなりにケアをしてきた。
だから今さらこんな大事を起こすとは思えなかったが、もしも国が一枚岩ではなかったら?
復讐をさせないという手段ではなく、牙をむいてくる存在を消してしまえという過激派がいたら?
あり得なくはない。
だって彼らは実際に、国のためという名目で獅子堂アリサを殺害しているのだから。
私が頭をフル回転させているうちに、重い金属音がして足音が近づいてきた。
「そろそろ目を覚ます頃か?」
男の声はどこかで聞いたことがあった。
だけど誰かは思い出せなかった。
間違いなく聞いたことのある声がする。
「目隠しと猿ぐつわを取れ」
「はい!」
男の声で目隠しと猿ぐつわが外され、新鮮な空気と視界を得る。
久しぶりに光を浴びたせいか酷くまぶしい。
徐々に目が慣れてくると、ここはどこかの廃工場のような場所だった。
まるでドラマに出てくるような、意外性も何もない場所。
そして目の前の男には見覚えがあった。
やっぱりそうだ、私はこの男に一度会っている。
「お目覚めかね?」
「一体これはどういうおつもりですか? 高田さん?」
私は男の名前を口にする。
その瞬間、高田の周囲にいる男達が銃口を私に向けるが、高田が片手で制すと銃を下ろす。
聞いたことのある声だと思ってはいたが、やはり会ったことのある人物だった。
前に一度、蒼汰についていった高級ホテルのレストランでこの男と出会っている。
確かあの時は向こう側から、私を見てみたいということで招待されたんだった。
あの時この男は私を品定めするフリをして、実際は私に対する蒼汰の態度を見ていた気がしていた。
そしてその時、こうも思った。
きっと何かしてくると。
「いやなに、国からしても自殺防止プログラムは素晴らしい。今や国を救うプロジェクトとなった。だがそんな素晴らしく大事なプロジェクトを、影井蒼汰なんていう若輩者に預けたまま進行するのはどうなのだろうと思ってな」
高田は完全に狂った目をしていた。
あれは正気の人間の目ではない。
「もう少し分かりやすく話してもらえますか?」
私は確信した。
こいつは私を餌に蒼汰を呼び出す気だ。
「簡単な話だ。端的に言えば国にとって影井蒼汰は邪魔なのだ。殺してしまって、我々で運営した方がいいに決まってる! 一個人に国の未来を左右されてたまるか!」
酷い物言いだ。
一個人に頼らざるをえなくなったお前たちに問題があるだけだろ!
私の内に熱が灯るのを感じた。
そうか、これが怒りか。
本気の怒り。
こいつを殺してやりたい。
そんな激情が内側で渦巻く。
「だとしてもどうして私を誘拐したの?」
私は渦巻く激情を内に秘めながら話を長引かせる。
大丈夫だ、きっと蒼汰は助けに来てくれる。
「簡単な話、あいつにとって一番大事な存在であるお前を使って呼び出し、その目の前で”もう一度”恋人を殺してやろうと思ってな!」
そう言って高田はニヤニヤと笑い出した。
いっそのこと敵役のように高笑いでもしてくれたほうがマシだ。
隠しきれないで漏れ出るにやけ面は、この世でもっとも醜い表情だ。
「そっか……”もう一度”私を殺すのね」
「ああそうだとも! 前に獅子堂アリサを殺した実行犯、アイツを選んだのは俺だよ! それなのに影井の奴、真の仇が目の前にいるとも知らずに、何度も俺と会食やら商談やらをしていたのさ。滑稽だろう?」
ついにゲロった。
この男が黒幕だ。
国も一枚岩ではないのだ。
きちんと蒼汰を立ててプロジェクトを進めていこうとする穏健派が大半だが、たまにこういうエラーが発生するのだ。
高田という男、コイツは国のエラー。国のガン。
「下衆野郎」
私がこんな汚い言葉を使ったのは初めてかもしれない。
内に秘めていた怒りが沸騰を始め、私の中に抑えきれなくなってきている。
こいつであれば殺していいのではないか?
そんな気持ちにさえなってくるほどに、私は怒り狂っていた。
「ハハハ。恐ろしい眼光だなAI。本性を現したか?」
高田は私を詰る。
前に会った時はアリサと呼んでいたのに、いまではAI呼ばわり。
本性を現したのはどっちなんだか……。
だがおかげで少し冷静になれた。
高田の愚かさのお陰でやや醒めたのだ。
「そうだお前ら。影井の野郎にコイツの映像を送りつけるんだ。ちょっとぐらい乱暴してやれ」
高田はこの部屋にいる部下二人に指示を出す。
あくまで自分は何もしないつもりらしい。
「忠告してやる! 私を殺したりしたら、蒼汰は絶対にお前を許さない」
「黙れAI。殺したら? 壊したらの間違いだろうが! 機械のくせに人間面してんじゃねえ!」
「うっ!」
高田は語気のまま私の腹を強く蹴る。
初めて蹴られたけど、こんなに痛いのか……。朝食べたものが全て出てきそうだ。
「チッ! 靴が汚れちまった!」
人を蹴り飛ばしておいて随分な言葉。
でもそうか……。私、本当に殺されるかもしれない。
蒼汰をおびき寄せるだけなら、私が死んでいようが生きていようがあんまり関係ない。
どっちにしたって、蒼汰はすぐさま駆けつける。
「お前ら、続きを始めろ」
「はい!」
高田の部下二人は、それぞれ好きなやり方で私を嬲り始めた。
蹴ったり殴ったり、鉄の棒のようなもので片腕を折られもした。
痛い痛い痛い!
燃えるような痛みの中、私の心は常に蒼汰の名を呼ぶ。
「……蒼汰」
何分経っただろうか?
嬲られ続けて意識が飛びそうになる中、私が絞り出すように口にした言葉は彼の名だった。
「コイツ、こんな時でも男の名前かよ。気色悪い人形め!」
高田がそう吐き捨て、私の顔面を蹴りあげようとした時、鉄製のドアが大きな爆発音と共に弾き飛ばされた。
ここはどこだろう?
私はどれだけの時間眠っていたのだろう?
というより、私は一体なにをされた?
徐々に意識が戻ってくると同時に、意識を失う前の瞬間を思い出す。
確か二人を送り出してからインターホンが鳴って、ドアを開けたら……。
そこまで思い出すと体が震える。
そうだった。
武装した男三人に襲われたんだ。
目を開けてみたが、案の定目隠しがされていて何も見えなかった。
体を動かそうにも、足は縛られていて、手も金属か何かで固定されているようだ。
完全なる監禁状態。
そして私が意識を失う前に聞いた「これで影井蒼汰も終わりだな」という言葉。
狙いは蒼汰で、私は人質。
推測は簡単だった。
蒼汰が狙われる理由は分からない。
誰かに恨みを買うような仕事ではないし……。
いやいや、該当する理由が一つだけあるじゃないか。
自殺防止プログラムの存在だ。
国は蒼汰の復讐を恐れるあまり、朝比奈さんを通じてアリサの思考パターンを私に植えつけたり、それなりにケアをしてきた。
だから今さらこんな大事を起こすとは思えなかったが、もしも国が一枚岩ではなかったら?
復讐をさせないという手段ではなく、牙をむいてくる存在を消してしまえという過激派がいたら?
あり得なくはない。
だって彼らは実際に、国のためという名目で獅子堂アリサを殺害しているのだから。
私が頭をフル回転させているうちに、重い金属音がして足音が近づいてきた。
「そろそろ目を覚ます頃か?」
男の声はどこかで聞いたことがあった。
だけど誰かは思い出せなかった。
間違いなく聞いたことのある声がする。
「目隠しと猿ぐつわを取れ」
「はい!」
男の声で目隠しと猿ぐつわが外され、新鮮な空気と視界を得る。
久しぶりに光を浴びたせいか酷くまぶしい。
徐々に目が慣れてくると、ここはどこかの廃工場のような場所だった。
まるでドラマに出てくるような、意外性も何もない場所。
そして目の前の男には見覚えがあった。
やっぱりそうだ、私はこの男に一度会っている。
「お目覚めかね?」
「一体これはどういうおつもりですか? 高田さん?」
私は男の名前を口にする。
その瞬間、高田の周囲にいる男達が銃口を私に向けるが、高田が片手で制すと銃を下ろす。
聞いたことのある声だと思ってはいたが、やはり会ったことのある人物だった。
前に一度、蒼汰についていった高級ホテルのレストランでこの男と出会っている。
確かあの時は向こう側から、私を見てみたいということで招待されたんだった。
あの時この男は私を品定めするフリをして、実際は私に対する蒼汰の態度を見ていた気がしていた。
そしてその時、こうも思った。
きっと何かしてくると。
「いやなに、国からしても自殺防止プログラムは素晴らしい。今や国を救うプロジェクトとなった。だがそんな素晴らしく大事なプロジェクトを、影井蒼汰なんていう若輩者に預けたまま進行するのはどうなのだろうと思ってな」
高田は完全に狂った目をしていた。
あれは正気の人間の目ではない。
「もう少し分かりやすく話してもらえますか?」
私は確信した。
こいつは私を餌に蒼汰を呼び出す気だ。
「簡単な話だ。端的に言えば国にとって影井蒼汰は邪魔なのだ。殺してしまって、我々で運営した方がいいに決まってる! 一個人に国の未来を左右されてたまるか!」
酷い物言いだ。
一個人に頼らざるをえなくなったお前たちに問題があるだけだろ!
私の内に熱が灯るのを感じた。
そうか、これが怒りか。
本気の怒り。
こいつを殺してやりたい。
そんな激情が内側で渦巻く。
「だとしてもどうして私を誘拐したの?」
私は渦巻く激情を内に秘めながら話を長引かせる。
大丈夫だ、きっと蒼汰は助けに来てくれる。
「簡単な話、あいつにとって一番大事な存在であるお前を使って呼び出し、その目の前で”もう一度”恋人を殺してやろうと思ってな!」
そう言って高田はニヤニヤと笑い出した。
いっそのこと敵役のように高笑いでもしてくれたほうがマシだ。
隠しきれないで漏れ出るにやけ面は、この世でもっとも醜い表情だ。
「そっか……”もう一度”私を殺すのね」
「ああそうだとも! 前に獅子堂アリサを殺した実行犯、アイツを選んだのは俺だよ! それなのに影井の奴、真の仇が目の前にいるとも知らずに、何度も俺と会食やら商談やらをしていたのさ。滑稽だろう?」
ついにゲロった。
この男が黒幕だ。
国も一枚岩ではないのだ。
きちんと蒼汰を立ててプロジェクトを進めていこうとする穏健派が大半だが、たまにこういうエラーが発生するのだ。
高田という男、コイツは国のエラー。国のガン。
「下衆野郎」
私がこんな汚い言葉を使ったのは初めてかもしれない。
内に秘めていた怒りが沸騰を始め、私の中に抑えきれなくなってきている。
こいつであれば殺していいのではないか?
そんな気持ちにさえなってくるほどに、私は怒り狂っていた。
「ハハハ。恐ろしい眼光だなAI。本性を現したか?」
高田は私を詰る。
前に会った時はアリサと呼んでいたのに、いまではAI呼ばわり。
本性を現したのはどっちなんだか……。
だがおかげで少し冷静になれた。
高田の愚かさのお陰でやや醒めたのだ。
「そうだお前ら。影井の野郎にコイツの映像を送りつけるんだ。ちょっとぐらい乱暴してやれ」
高田はこの部屋にいる部下二人に指示を出す。
あくまで自分は何もしないつもりらしい。
「忠告してやる! 私を殺したりしたら、蒼汰は絶対にお前を許さない」
「黙れAI。殺したら? 壊したらの間違いだろうが! 機械のくせに人間面してんじゃねえ!」
「うっ!」
高田は語気のまま私の腹を強く蹴る。
初めて蹴られたけど、こんなに痛いのか……。朝食べたものが全て出てきそうだ。
「チッ! 靴が汚れちまった!」
人を蹴り飛ばしておいて随分な言葉。
でもそうか……。私、本当に殺されるかもしれない。
蒼汰をおびき寄せるだけなら、私が死んでいようが生きていようがあんまり関係ない。
どっちにしたって、蒼汰はすぐさま駆けつける。
「お前ら、続きを始めろ」
「はい!」
高田の部下二人は、それぞれ好きなやり方で私を嬲り始めた。
蹴ったり殴ったり、鉄の棒のようなもので片腕を折られもした。
痛い痛い痛い!
燃えるような痛みの中、私の心は常に蒼汰の名を呼ぶ。
「……蒼汰」
何分経っただろうか?
嬲られ続けて意識が飛びそうになる中、私が絞り出すように口にした言葉は彼の名だった。
「コイツ、こんな時でも男の名前かよ。気色悪い人形め!」
高田がそう吐き捨て、私の顔面を蹴りあげようとした時、鉄製のドアが大きな爆発音と共に弾き飛ばされた。