初詣も終わり、私たちは家に帰って来ていた。
時計を見るともうお昼を超えていて、オールナイトで初詣に挑んだ私たちはそろって眠そうに目を擦り、欠伸を連発している。
もう限界だろう。
新年早々お昼寝というのも悪くない。
「各々しっかり寝よう」
そんな蒼汰の号令の下、私たちはそれぞれの部屋に消えていき、ベッドに横になる。
私はベッドに仰向けになり、窓から差し込む日差しに目を細める。
朝比奈さんの告白を聞いた後、蒼汰を諦めるかとの問いに沈黙を貫いた彼女を置いて、先に雑木林から出てきた私は、蒼汰と朱里に目線だけで合図を送って帰路についた。
二人とも答えを聞きたがっているように見えたけれど、朝比奈さんの名誉のために私も沈黙を貫いた。
そんな私を見て、話を聞きだすのは無駄だと理解したのか、二人とも帰り道も帰ってからも話題にしなかった。
本当にありがたい。
家族に隠し事はしたくないが、言えないこともある。
それをちゃんと理解して適切に距離を取ってくれるのだ。
「なんか分からなくなってきたな……」
私はベッドの上で思考を巡らせる。
朝比奈さんの本音はどこなのだろう?
本当の彼女はどこにいる?
私を開発した朝比奈さん。
蒼汰を愛している朝比奈さん。
今の私たちを応援してくれている朝比奈さん。
一体彼女の本音はどこにあるのだろう?
「もしかしたらこの生活が脅かされるのかな?」
天井に手を伸ばし、私は独り言を口にした。
私は彼女を都合よく信じている。
きっと彼女は私たちの生活を崩そうとはしてこない。
そのはずだと、自分にとって好都合な妄想を膨らませている。
悶々とした時間が続く。
ベッドの上でゴロゴロしながら、無意味に時間が過ぎていく。
眠ったり目覚めたりを繰り返すが、私の頭の中は蒼汰と朝比奈さんのことでいっぱい。
なんでこんなに頭から離れないんだろう?
そんな考えが浮かんでは消えていく。
窓から差し込む日差しの角度と色が変化してきた頃、私はベッドから起き上がった。
なんであの二人のことが頭から離れないのか、その答えは分かっている。
というより何度も頭の中で再生されたせいで、ハッキリとしてきたのだ。
二人っきりの雑木林で、私が最後に尋ねた言葉。
蒼汰を諦めるか? という問いに対して沈黙で返した朝比奈さん。
でもあの時、彼女は泣いていたではないか。
それも我慢を続けた者が、耐えきれず流す涙だ。
「朝比奈さんのあんな表情、初めて見たな……」
私は着替えながら電話をかける。
電話先は決まっている。
何度コールが続いても出る気配がない。
もしかしたら私たちみたいに寝ているかもしれない。
それとも私に、謝罪と共に告白したことを後悔しているのだろうか?
だったらきっと今日だけは私と話したくはないのだろう。
でもそんなの関係ない。
私はずっと彼女の言葉で乱されているのだ。
心配と不安と迷いで、押しつぶされそうになっているのだ。
ここまでずっと黙っていたのなら、最後まで沈黙を貫けばよかったのに。
そんな身勝手な思いが沸々と湧いてくる。
電話に出ないのなら直接向かうまで。
私がここまで思考を支配されている原因は、きっと初めて蒼汰を誰かに取られるかもしれないと思っているからだ。しかも現在進行形で……。
今まで彼は常に無償の愛を私に与えてくれていたし、彼に女の影なんてなかった。
常に私に執着していた。
執着自体は今もきっと変わらないのだろうけれど、もしかしたらと思ってしまう自分がいる。
私はそれを否定できない。
「どこに行くんだ?」
部屋を出たところで蒼汰が声をかけてきた。
「どこでもいいでしょ?」
「朝比奈さんのところか?」
「……よくわかったね」
「舐めるなよ。俺は誰よりもアリサのことを知っているのさ」
「久しぶりに言うけど、変態だね」
「褒めるな」
そう言って私たちは笑い出す。
なんか久しぶりのやり取り。
そうだ、彼が私よりも彼女を選ぶはずがない。
でもこのままというのは嫌だ。
「蒼汰は彼女の家知ってる?」
「連れて行ってあげるよ。俺は車で待っているから、存分に話し合ってこい」
深くは聞かずに、蒼汰は協力してくれる。
私への信頼を感じることができる。
蒼汰の車に乗り込んで、私たちは朝比奈さんの家に向かうことにした。
「ねえ蒼汰」
「なんだ?」
「もしもさ、私以外のとんでもなく綺麗な人が告白して来たらどうする?」
「なんだよ急に」
「いいから答えてよ」
きっと鬱陶しい質問なんだろうなと思いながらも、初めてこういうことを聞いてみた。
今までこういう類いのことを話題にしてこなかった。
彼の私に対する執着の強さと、私が他の人間に無関心なのもあって必要がなかったのだ。
「まあだいたいアリサが何を言いたいのか分かるけど、無いよ、可能性は。俺が朝比奈さんに迫られても俺は首を横に振る。今の君だけが好きだから」
蒼汰は真っすぐ前を見ながら宣言する。
その言葉は私を優しく包み込む。
彼は間違いなくいまの私を愛してくれている。
過去のアリサの亡霊ではなく、いまの私を……。
「じゃあ行ってくるね」
「ここで待ってるよ」
車を走らせること一時間。
私は車から降りてふり返る。
胸が暖かくて仕方がない。
きっと彼の言葉のおかげだ。
私に勇気を与えた言葉は、やがて私の背中を押した。
彼女の家は案の定豪邸だった。
門のそばにあるインターホンを鳴らすと、無言で黒い門が不愉快な金属音を発しながら開いた。
開いたということは入っていいってことだよね?
私は一歩足を踏み出す。
敷地の中には真っすぐ道が続き、その左右には木々が立ち並び、ところどころに手入れされた花壇がある。
どうにもおかしい。
普通のお金持ちの女性の家だとは思えない。
豪華すぎる。
敷地内を真っすぐ歩くことニ、三分。
二階建ての立派な洋館の入り口に辿り着く。
私は一度深呼吸をして、再びインターホンを鳴らした。
時計を見るともうお昼を超えていて、オールナイトで初詣に挑んだ私たちはそろって眠そうに目を擦り、欠伸を連発している。
もう限界だろう。
新年早々お昼寝というのも悪くない。
「各々しっかり寝よう」
そんな蒼汰の号令の下、私たちはそれぞれの部屋に消えていき、ベッドに横になる。
私はベッドに仰向けになり、窓から差し込む日差しに目を細める。
朝比奈さんの告白を聞いた後、蒼汰を諦めるかとの問いに沈黙を貫いた彼女を置いて、先に雑木林から出てきた私は、蒼汰と朱里に目線だけで合図を送って帰路についた。
二人とも答えを聞きたがっているように見えたけれど、朝比奈さんの名誉のために私も沈黙を貫いた。
そんな私を見て、話を聞きだすのは無駄だと理解したのか、二人とも帰り道も帰ってからも話題にしなかった。
本当にありがたい。
家族に隠し事はしたくないが、言えないこともある。
それをちゃんと理解して適切に距離を取ってくれるのだ。
「なんか分からなくなってきたな……」
私はベッドの上で思考を巡らせる。
朝比奈さんの本音はどこなのだろう?
本当の彼女はどこにいる?
私を開発した朝比奈さん。
蒼汰を愛している朝比奈さん。
今の私たちを応援してくれている朝比奈さん。
一体彼女の本音はどこにあるのだろう?
「もしかしたらこの生活が脅かされるのかな?」
天井に手を伸ばし、私は独り言を口にした。
私は彼女を都合よく信じている。
きっと彼女は私たちの生活を崩そうとはしてこない。
そのはずだと、自分にとって好都合な妄想を膨らませている。
悶々とした時間が続く。
ベッドの上でゴロゴロしながら、無意味に時間が過ぎていく。
眠ったり目覚めたりを繰り返すが、私の頭の中は蒼汰と朝比奈さんのことでいっぱい。
なんでこんなに頭から離れないんだろう?
そんな考えが浮かんでは消えていく。
窓から差し込む日差しの角度と色が変化してきた頃、私はベッドから起き上がった。
なんであの二人のことが頭から離れないのか、その答えは分かっている。
というより何度も頭の中で再生されたせいで、ハッキリとしてきたのだ。
二人っきりの雑木林で、私が最後に尋ねた言葉。
蒼汰を諦めるか? という問いに対して沈黙で返した朝比奈さん。
でもあの時、彼女は泣いていたではないか。
それも我慢を続けた者が、耐えきれず流す涙だ。
「朝比奈さんのあんな表情、初めて見たな……」
私は着替えながら電話をかける。
電話先は決まっている。
何度コールが続いても出る気配がない。
もしかしたら私たちみたいに寝ているかもしれない。
それとも私に、謝罪と共に告白したことを後悔しているのだろうか?
だったらきっと今日だけは私と話したくはないのだろう。
でもそんなの関係ない。
私はずっと彼女の言葉で乱されているのだ。
心配と不安と迷いで、押しつぶされそうになっているのだ。
ここまでずっと黙っていたのなら、最後まで沈黙を貫けばよかったのに。
そんな身勝手な思いが沸々と湧いてくる。
電話に出ないのなら直接向かうまで。
私がここまで思考を支配されている原因は、きっと初めて蒼汰を誰かに取られるかもしれないと思っているからだ。しかも現在進行形で……。
今まで彼は常に無償の愛を私に与えてくれていたし、彼に女の影なんてなかった。
常に私に執着していた。
執着自体は今もきっと変わらないのだろうけれど、もしかしたらと思ってしまう自分がいる。
私はそれを否定できない。
「どこに行くんだ?」
部屋を出たところで蒼汰が声をかけてきた。
「どこでもいいでしょ?」
「朝比奈さんのところか?」
「……よくわかったね」
「舐めるなよ。俺は誰よりもアリサのことを知っているのさ」
「久しぶりに言うけど、変態だね」
「褒めるな」
そう言って私たちは笑い出す。
なんか久しぶりのやり取り。
そうだ、彼が私よりも彼女を選ぶはずがない。
でもこのままというのは嫌だ。
「蒼汰は彼女の家知ってる?」
「連れて行ってあげるよ。俺は車で待っているから、存分に話し合ってこい」
深くは聞かずに、蒼汰は協力してくれる。
私への信頼を感じることができる。
蒼汰の車に乗り込んで、私たちは朝比奈さんの家に向かうことにした。
「ねえ蒼汰」
「なんだ?」
「もしもさ、私以外のとんでもなく綺麗な人が告白して来たらどうする?」
「なんだよ急に」
「いいから答えてよ」
きっと鬱陶しい質問なんだろうなと思いながらも、初めてこういうことを聞いてみた。
今までこういう類いのことを話題にしてこなかった。
彼の私に対する執着の強さと、私が他の人間に無関心なのもあって必要がなかったのだ。
「まあだいたいアリサが何を言いたいのか分かるけど、無いよ、可能性は。俺が朝比奈さんに迫られても俺は首を横に振る。今の君だけが好きだから」
蒼汰は真っすぐ前を見ながら宣言する。
その言葉は私を優しく包み込む。
彼は間違いなくいまの私を愛してくれている。
過去のアリサの亡霊ではなく、いまの私を……。
「じゃあ行ってくるね」
「ここで待ってるよ」
車を走らせること一時間。
私は車から降りてふり返る。
胸が暖かくて仕方がない。
きっと彼の言葉のおかげだ。
私に勇気を与えた言葉は、やがて私の背中を押した。
彼女の家は案の定豪邸だった。
門のそばにあるインターホンを鳴らすと、無言で黒い門が不愉快な金属音を発しながら開いた。
開いたということは入っていいってことだよね?
私は一歩足を踏み出す。
敷地の中には真っすぐ道が続き、その左右には木々が立ち並び、ところどころに手入れされた花壇がある。
どうにもおかしい。
普通のお金持ちの女性の家だとは思えない。
豪華すぎる。
敷地内を真っすぐ歩くことニ、三分。
二階建ての立派な洋館の入り口に辿り着く。
私は一度深呼吸をして、再びインターホンを鳴らした。