虹をかける

十月十六日月曜日。

とうとう文化祭の日がやってきた。

私はいつもより早く登校して、空くんの所へ向かった。

「おはよう。空くん。」

「おはよう。」

「文化祭頑張ってくるね。」

「うん。頑張ってね。真美なら絶対できるよ。大丈夫、大丈夫。」

「ありがとう。頑張ってくる。」

「立ち向かってるね。逃げてないね。」

「え?」

空くんの言葉が私の心に響いた。

立ち向かってる?

逃げてない?

この私が?

そうだ。

私は今、立ち向かっているんだ。

死ぬ前の最後の力を振り絞って。

逃げていないんだ。

今までの私とは違う。

大嫌いだった自分のことを少しだけ褒めてあげたくなった。

「チャイム鳴っちゃうよ?」

「あっ、うん。行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

私は教室に向かった。

お揃いの髪型をして気合いを入れている一軍女子。

いつもとは違う雰囲気に興奮している男子たち。

そんなクラスメイトたちとは真逆に、私は自分の席で、楽譜を読んでいた。

そして、九時。

文化祭が開幕した。

文化祭実行委員長の挨拶。

先輩たちのファンファーレ。

美術部の作品紹介。

どれもとても素晴らしかった。

そして次は、クラス合唱。

一番端っこで、自分の雰囲気を最小限に留めて頑張った。

逃げなかった。

その後お昼の休憩があって。

最後は吹奏楽部の演奏だ。

陰口を言ってくる部員と一緒に部活がしたくなくて。

でもそれは自分が逃げているだけだと分かっていて。

そんな自分が嫌いになって。

でも空くんに出会って立ち向かうって決めたから。

死のうとしたけど今日まで必死に生きてきた。

嫌なことがあっても全力で。

この演奏で文化祭が終わる。

やっと、こんな人生とさよならできる。

そんなことを思いながら、でも必死に私は音を奏でた。

逃げなかった。

なんとなく、楽しかった。

やり切れた気がした。

終わりの言葉があって。

閉会式があって。

文化祭は終わった。