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しばらくの間、俺は部活を休んだ。その間裕也と顔を合わせることもなかった。俺達はクラスも違ったし、共に過ごす場所はといえば、そのほとんどが美術室だったから。当然と言えば当然のことだった。顔を見たいと思っても、やはり最後の別れ方があんな風だったから。会いに行くのに二の足を踏む自分がいる。
喧嘩別れのようになってしまったあの日、「ごめん」とスマホに一言でも連絡を入れていたら、何か変わっていたのだろうか。
彼からのメッセージを知らせる通知は今日もない。時間が経てば経つほど、こちらから連絡を入れる勇気すらなくなっていく。
ボヤ騒ぎから数日も経っていないある日、楠瀬はおそらく、俺と裕也の様子がおかしいことに気がついたのだろう。そのことについて尋ねられたことがある。「お前ら、最近何かあった?」と。
俺達の間にあったことを伝えることもできたが、その時はまだ裕也のことより自分のことで精一杯だったから。「なんでもないよ」と誤魔化した。「ちょっと喧嘩しちゃって。でも大丈夫だから」と、そう言って差し伸べてくれた手を拒んだ。
それからしばらく、楠瀬はいつも通りの会話の合間に、時折何か言いたそうな表情を覗かせることがあったけれど。俺が気付かないふりをしていれば、そのうち何か言う素振りも見せなくなった。
そうして事態は好転するわけでも悪化するわけでもなく、ただ停滞していた。その停滞の中で、俺は自身の心にぽっかり空いた穴の存在を知った。その穴を埋めることができるのは多分、他でもない彼。だから最近はずっと、まるで胸の真ん中を隙間風が絶えず吹いているように寒くて。時折、そこはチクリと痛んだ。