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 どんなことがあったって、時間は俺たちを待ってはくれない。どこかの誰かがその瞬間に、幸せを噛み締めていようとも、はたまた他の誰かが下を向き、目の前の理不尽に打ちひしがれていようとも。

そんなこと、お構いなしに世界は回る。

高校三年生に進級していた。

俺は希望の大学への推薦は諦め、一般入試でそこに挑むことを決めていた。目指すのは、絵を専門的に学ぶことのできる場所。いわゆる美術大学と呼ばれるそこは、入学に際し、受験生に一般科目の試験に加え、絵の実技試験を課している。毎日、絵と勉学に励む日々が続いていた。


 この日は美術部に所属する三年生が、最後の部活動に勤しむ日。

俺の通う高校では、毎年六月になると三年生が部活を引退する。そしてそれ以降、引退した生徒達は、放課後の時間を専ら受験勉強に割くことになるのだ。

だから、本格的に時間がなくなるその前に。引退の日は、「また遊びにきてください」などと書かれた寄せ書きと、小さなブーケを貰って。実際の卒業はまだまだ先であるにもかかわらず、後輩達と、懐かしい思い出話に花を咲かせてみたりする。

そんな様子はどこの部活も似たり寄ったりだ。だから大抵、引退イベントの主役である三年生は、最終下校時刻のギリギリになって、ようやく各々の部室から解放される。

美術部も例に違わずそうだった。下校を促す校内放送が鳴って、部員達はそれぞれ、長く座りすぎて凝り固まった腰をゆっくりと持ち上げ外に出た。


 美術室の扉を開けた先、そこに彼は立っていた。俺に気づいた彼が、こちらに向かって軽く手を挙げてみせる。

楠瀬颯斗が、そこにいた。

「今日で引退?」

そう、俺に尋ねる彼は、いつからそこで待っていたのだろう。待ち合わせの約束なんて、していなかったはずだけれど。

「そう」

「なんか悪いな、こんな日に」

「いや、こっちこそ。長く待たせたか? 何か用?」

「俺が勝手に待ってたの。話があってさ」

「話って?」

「帰り、ちょっと付き合って」

そう言った彼が俺を連れて来たのは小さな地域の公園だった。