化学準備室のボヤ騒ぎから数日、俺は美術室へ、こっそりと顔を出しに行った。柊に会って話をしたかったからだ。

けれど、正直迷いもあった。だって、いざ彼を目の前にしたら、かける言葉が見つからなくなりそうだったから。

あんなにも近くにいたのに。今では彼とどうやって話をしていたのか、それすら上手く思い出せない。

そもそも、話し方なんて考えたこともなかった。あの頃の俺達は息をするよりも自然に、ただ互いの存在が隣にあって、互いの時間を共有していた。

放課後、たった数時間のことだったけれど。それは確かに、他のなによりも濃い時間だった。