「瀬川さんは何で学校では相馬君と幼馴染だって言わないの?あの時だって、私がそう指摘したら凄く驚いてたよね!?」

会話の流れで突然私がキレ出したことに、瀬川さんは一瞬面をくらったが、直ぐに険しい顔付きへと変わる。

自分でも何も知らない瀬川さんに対して、的を射ない怒りをぶつけてしまったとは思うけど、どんどんと溢れ出す悔しさにもうなりふり構っていられなかった。

「…………」

暫く黙ったまま睨み合う私達。

「……はあ〜」

先にこの沈黙を破ったのは、何かを諦めたかの
ように大きな溜息を吐いた瀬川さんだった。

「これ、あんまり人に言いたくない話なんだけどさ……」

そして、バツが悪そうに私から視線を外すと、一点を見つめながらゆっくりと口を開く。

「私、中学の時いじめられてたの。それで、悠介が何回か庇ってくれて。……私もあの時は結構気弱で、自分が大嫌いだった……」

私は瀬川さんの思わぬカミングアウトに、軽い衝撃を受けた。

まさか、あの瀬川さんがいじめに遭っていたなんて。

前のクラスでは結構交友関係が広かったし、校内でも可愛いと人気を誇る瀬川さん。
だから、そんな彼女に“いじめ”という単語が全く結び付かなくて、私は軽い混乱を覚える。

「だから、高校生になったらそんな自分を変えてやろうと躍起になって、色々努力したの。そのお陰で今の私があるって感じかな」

そんな困惑する私を他所に、瀬川さんは思い耽るように空を見上げた。

「もうあの時の自分は無いものだと思っているの。だから、偶然高校が一緒になった悠介だけが、そんな醜かった私を知ってる……。だから……」

そこまで言うと、瀬川さんは言葉を詰まらせた。

そして、その話に私の心中は段々と穏やかでなくなってくる。

もしかして、相馬君だけが瀬川さんのそんな過去を知ってるから。だから、避けてるとでもいうの?
中学の時に庇ってくれたのに、そんな恩も忘れて?

まだ最後まで話を聞いていないのに、どんどんと突っ走っていく思考回路に、私の身体は震えてきた。

「それに、悠介って前から変わらないけど地味キャラじゃん?だから、何か一緒にいると折角頑張って作った私のイメージが下がりそうって言うか……」

しかも、想像の遥か上をいく瀬川さんのあまりにも冷酷な発言に、私はもう我慢ができなかった。