「あ、おばさん。こんにちは。また来ちゃいました」

背後から聞こえる瀬川さんの声。

私は今はその顔を見たくなくて、振り返ることなく冷や汗を垂らしながら拳を強く握りしめる。

「あれ?珍しいね。朝倉さんも来てたの?」

そんな私の心境なんて知る由もない瀬川さんは、私の存在に気付くと、きょとんとしながらこちらの顔を覗き込んできた。

「……あ、うん。」

何て言えばいいのやら。
その先の言葉が上手く出てこなくて、私はただ素っ気なく二つ返事をしただけだった。

「おばさん、悠介の容態は相変わらず?」

瀬川さんは特にこちらの様子を気にすることもなく、相馬君のお母さんの方へ向き直すと、少し表情を曇らせながら首を傾げる。

「そうね。……でも、今日は少し反応があったのよ。朝倉さんが呼び掛けてくれたお陰で」

相馬君のお母さんも笑顔に若干の陰を見せるも、先程のやり取りを伝えると、再び明るい表情へと戻った。

「…………そうなんだ」

その話を聞いた瀬川さんは、暫く無言になった後、意味深げにそう呟くと、視線だけをこちらに向ける。

その反応がなんだか引っ掛かり、私はつい表情を強張らせてしまった。

「美菜ちゃんも悠介に会っていく?」

「ううん。話聞けたから大丈夫。この後学校行かなきゃだし。……朝倉さんも制服って事は学校行くのかな?」

瀬川さんは相馬君のお母さんの誘いをやんわり断ると、同じ制服姿の私に目を向ける。

「そっか。明日はもう文化祭だもんね。結局悠介はこんなになっちゃったからダメだけど」

すると、私が返答するよりも先に相馬君のお母さんが発した言葉に、私は思わずぴくりと体が反応してしまった。