「……ねえお姉ちゃん、お兄ちゃんが目を覚ましたらまた来てくれる?きっとお兄ちゃん喜んでくれるよ」

すると、凛ちゃんは急に神妙な面持ちへと変わったかと思うと、真っ直ぐな目を私に向けてきた。

その目に少し圧倒されながらも、私はバツが悪そうに視線を逸らしてしまう。

「それなら瀬川さんの方がいいんじゃないかな?幼馴染だし、私よりもずっと喜んでくれると思うよ」

小学生相手に何を捻くれた事を言っているんだと自己嫌悪に陥りながらも、これまでの相馬君の様子を見る限りだと、どう考えても私より彼女の方が適任だろう。

一杉君にベタ惚れの彼女にはそんな気持ちなんてないのかもしれないけど、少なくともお見舞いには来てくれているみたいだから、きっと目が覚めた時も来てくれるはずだ。

そんな光景を思い描いていると、再び胸の奥から突き刺すような痛みが走る。

……まったく。

自分の気持ちに気付いてしまったせいで、毎回瀬川さんの話になる度にこんな風になってしまうなんて……。

私は二人に気付かれないよう、密かに肩を落とすと、何やら華ちゃんが顎に手を当てて唸り始めた。

「……うーん。でもお兄ちゃんは……」

「凛ちゃん、華ちゃん!」

それから、何かを言おうとした矢先に、再び背後から聞こえてきた見知った声によりそれは中断され、私達はその方向へと振り向く。

「もう帰るわよ!あまりお姉さんに迷惑かけちゃダメでしょ!」

その先には集中治療室から出てきた相馬君のお母さんが、少し呆れた表情をしながらこちらに向かってきた。

「朝倉さん、こちらこそ本当に今日は来てくれてありがとう。今はなかなか会いづらいけど、悠介が元気になった時にまた来てね」

そして、私の前で立ち止まると、満面の笑みでそう言ってくれた事に何だか気持ちが少し楽になった気がして、私もやんわりと微笑み返す。

「……あれ、美菜ちゃん?」

その時、相馬君のお母さんの視線がふと私から外れたかと思うと、思わぬ人物の名前を口にして、私の体は反射的に大きく震えた。