違う。

そんな綺麗な話なんかじゃない。

これは、私の単なる我儘だ。

こんなになってまで、あの場所に、瀬川さんに囚われ続けている相馬君が腹立たしくて。

その狭間に立ち続けている事がもう苦しくて。

相馬君にはもう瀬川さんの事を諦めて欲しくて。


悔しくて、切なくて。


そんな私の卑しい本音をぶつけただけなのに……。



きっと相馬君が反応したのは、もしかしたら無意識ながらに私のそんな想いを跳ね除けたかったからかもしれない。

私の身勝手な要求を受け入れたくなくて。


それぐらいに、やっぱり相馬君にとっては瀬川さんの事が大切なのかもしれない……。



そう思い始めると、私の中での黒い感情はどんどんと膨れ上がり、渦を巻き始める。

そんな中で純粋に相馬君の回復を祈っているお母さんや、華ちゃんや凛ちゃんに申し訳なさを感じ、私はもうこの場に立っていられなくなった。

「あ、あの、すみません!私ちょっとこの後用事があるの思い出して……!」

我ながら何とも不自然な挙動なのだろうと思いながらも、他に良い案が思い浮かばず、兎に角早くここを離れたくて、私は焦るように入口の方へと向き直す。

「今日はありがとうございました。相馬君の目が覚めたら、またお見舞いに行きますね。そ、それじゃあ!」

涙が溢れそうになる前に、私は相馬君の家族に一礼すると、返事を待たずに逃げるように集中治療室を飛び出したのだった。