「……そうだね」

すると、消え入るような声で呟いた彼の一言に、閉じた目を恐る恐る開く。

「同情なんていらない。下手な慰めなんかもいらない」

続けて今度はハッキリとした口調でそう断言してきて、私は小刻みに脈打つ鼓動を抑えながら、視線だけを彼の横顔に向けた。

「そうやって思うがままの感情をぶつけてくれた方がいい。……君の怒った顔が、何だか嬉しく思えるんだ」

そこまで話すと、不意に相馬君もこちらに目を向けてきて、私達の視線はかちりと合う。

「ねえ、やっぱり僕って調子に乗ってるかな?」

そして、垂れ目がちな目が更に下がり落ちてきて、まるで雨に濡れた子犬ような弱々しい表情を見せてくると、甘い声で囁くようにそう尋ねてきた。

「……っ!し、知らないっ!」

我慢の限界を感じた私は、堪えられず勢い良くその場から身を引く。

霊体であるお陰で遮るものは何もなく、いとも簡単に相馬君から離れる事が出来た私は、まるで今にも湯気立ちそうな程の熱を帯びている顔を見られたくなくて、思いっきり体を背けた。

全く。一見大人しそうに見えるのに、大胆なあの振る舞いは一体何だったのだろうか。

何だか余裕を感じられたし、しかも、妙な色気さえも感じてしまう始末。

もしかして、相馬君って意外に女の子慣れしてたりするの!?

なんて、私は軽い混乱を覚えながら、未だ暴れまくる心臓を何とか鎮めようと深く息を吐いた。