今、相馬君はあなた達のすぐ目の前に立っているのに。

手を伸ばせば触れられる程、こんなにも近くにいるのに。

思わず叫びたくなる衝動を何とか堪えながら、私はその場で息を殺す。

すると、二人はロッカーに立て掛けてあった鞄を手に取り、こちらへと向かってきて、私は慌てて近くの柱の影に身を潜める。

それから、二人の男子生徒は教室を出て通路奥へと消えて行き、暫くすると、他に残っていた数人の生徒達も教室を後にし、中に誰もいなくなった事を確認した私は恐る恐る奥へと足を踏み入れた。

しんと静まり返った教室の中、見るといつの間にかこちらに背を向けて窓際に佇む相馬君。

「……あ、あの」

いたたまれなくなった私は、か細い声で呼び掛けるも、彼からの応答が何もない。
それに、後ろを向いているせいで、今彼がどんな顔をしているのか全くわからない。
しかも、心なしか、少しだけ背中が震えているようにも見える。


……もしかして、泣いている?


「ねえ、相馬君」

心配になり、堪らず少し強めの口調で彼の名を呼んでみる。

「ん?どうしたの?」

けど、思っていたのとは違い、なんて事無い様子でいつもの穏やかな表情で振り返ってきた相馬君に、私は拍子抜けしてしまった。