「なんともないよ。ちょっとこめかみを切ったみたいだけど、後は全然平気だから」

とりあえず、余計な心配を払拭させようと、私は終始落ち着いた様子で夏帆をなだめる。

「そっか、それならいいんだけど」

ようやく勢いが収まった夏帆は、大きく息を吐くと、力が抜けたようにベットの横に備え付けられた丸椅子に座り込んだ。


小学校の頃からずっと一緒にいる、幼馴染の綾織夏帆。
人見知りが激しく、しかも積極的に人と関わろうとしない私の数少ない親友だ。

私と違い、いつもニコニコしていて人当たりも良く、身長も低くて少し茶色かかったストレートの長い髪をした可愛い女の子。
それ故、夏帆は昔から男子にモテて、中学の頃から彼氏が途絶える事はなかった。

けど、かなりのミーハーで面食いのため、いつも彼氏そっちのけで騒いでいたりするけど、裏表のない性格が私にとって居心地が良く、気付けばいつも一緒にいる腐れ縁だ。


「それよりもさ、由香里をここまで連れてってくれた人、一体誰だと思う?」

すると、つい先程まで青ざめていた表情とは一変して、今度は目を爛々とさせながら口元を緩ませる夏帆。

「知らない。てか、それ早く教えてよ」

私はもったいぶる言い方に少し苛立ちを感じながら先を促すと、夏帆の顔が益々にやけ始める。