おそるおそる振り返ってみると、まさかの本人登場に、私は変な汗が流れる。
一方、夏帆は慌てて体裁を整えると、これでもかという程の愛想笑いを振りまいた。

「朝倉さんが俺の話をしてくれるなんて、光栄だなあ」

すると、柔らかい笑顔でそう言い放った一杉君の言葉に、私は思わず目を丸くする。

冗談なのは重々承知の上だけど、まるで好意をちらつかせるようなニュアンスにどう反応すればいいのか分からず、乾いた笑いしか出来なかった。

「ご、ごめん変な話じゃないから」

……なんて、まさに誤解を生むような台詞を吐いてしまったと、言ってから後悔する私。

「別に気にしてないよ。それよりも、例の探し物は見つかった?」

けど、一杉君は表情一つ変えずにさらりと昨日の話を持ち掛けてきて、私は一瞬ぴくりと肩が動いた。

「あっ、う、うん。まだ見つかんない」

そして、ぎこちなく首を横に振って応える。

「そっか……。もしかしたら、誰かが気付いて先生に届けたって事もあるかもしれないね。後で職員室行く用事あるから、ついでに聞いてきてあげようか?」

「えっ!?だ、大丈夫だよ!それくらい自分でやるから!あ、あの気にしてくれてありがとう!そ、それじゃあっ!」

まさかの一杉君の申し出にたじたじになり、思考が上手く回らず、食券を握りしめて慌ててその場から逃げるように駆け出してしまった。