「うそ……。君、僕が見えるの?」

そう目を大きく見開いて私を凝視してくるのは、紺色ブレザーを着た制服姿の黒縁眼鏡を掛けた男子生徒。

緑色のネクタイをしているということは、私と同じ二学年の生徒だ。
けど、その人が何処の誰かは全然知らない。

少子化が進む世の中、割と生徒数が多いうちの私立校は10クラス近くあり、名前も顔も知らない生徒なんてごまんと居る。

しかも、目立った特徴もない、そこら辺にいるような冴えない顔をした人なんて尚更分かるわけがない。

よく見ると、割と髪が細くてサラサラな黒髪だったり、肌が白くて綺麗だったりするけど……。

目は垂れ目がちで大きくも小さくもない。
背も170前後くらいで平均並みだし、顔立ちも眼鏡のせいかもしれないけどパッとしなくて普通。

こんな人見かけたって、きっと一瞬で記憶から消え去ってしまうだろうな。


「……あのさ、あんまりまじまじと人の顔見ないでくれる?」

すると、暫く無言のまま呆然としていた私に向かって、男子生徒は少し引きつった笑顔を見せて突っ込んでくる。

その言葉で、私はふと我に返った。

いけない。
絵を描いているせいか、物事を観察してしまう癖がつい出てしまった。

動揺する自分を誤魔化す為、私はわざとらしく咳払いをする。