「いつの間に居ないと思ったら、あんな所で何一人突っ立てたの?」

声のした方へ戻ると、とても怪訝な目を向けた夏帆がこちらに迫ってくる。

「別に。ちょっと気晴らし」

もう誰かに探し物ネタを打ち明けるのが面倒になってきた私は、思い切り適当な返答をした。

「はあ?何それ?」

当然、それに納得のいかない夏帆は、益々怪訝な表情になりながら首を横に傾げる。

けど、私はこれ以上構う気なんてさらさらない為、そのまま夏帆の抗議をさらりと受け流していると、脇から甲高い黄色い声が響いてきた。

見ると、丁度一杉君がハードルを飛んでいる所で、無駄のない軽やかな走りが女子生徒達のハートを鷲掴みにし、周囲の歓声が耳障りな程に鳴り止まない。

「きゃあっ!一杉君格好良すぎっ!」

それに釣られて、私の側近からも頭にキンと響くような黄色い声が発せられた。

「うるさいっ!」

堪忍出来なくなった私は、八つ当たりの如く思わず声を張り上げて夏帆を一喝する。

「ごめ~ん、ついね。だってハードル飛ぶ姿も素敵なんだもん」

しかし、これも日常茶飯事のやり取りの為、当の本人には全く効果がなく、私はうんざりした気持ちに大きな溜息を吐いて項垂れた。

すると、何処からか感じる誰かの視線。

ふと顔を上げた途端、こちらをじっと見つめている瀬川さんと目がかち合った。
直後、にこりと微笑みかけてはくれたが、何故かその笑顔に背筋がぞくりと震える。