「あ、あの……ハピネスベアーのストラップ」

おずおずとそう答えた瞬間だった。

穏やかだった一杉君の表情が一瞬歪んだ。

終始笑顔を絶やさない人であるだけに、私は自分の目を疑う。

けど、直ぐにいつもの柔らかく優しい面持ちに戻り、私はその豹変ぶりに少しだけ唖然としてしまった。

「そっか。それじゃあ、俺も気にしてみるよ」

そう言うと、一杉君は何事もないように爽やかな笑顔で応えると、くるりと踵を返してハードルが設置されている場所へと戻って行った。


……今のは、気のせいじゃないよね?

未だ状況についていけない私は、尚もその場で立ち尽くす。

ほんの一瞬の出来事だったけど、普段の姿からは想像も出来ないくらいの、嫌悪感漂う一杉君の表情が脳裏にハッキリと焼き付けられ、あれは見間違いではないと確信する私。

何故そんな反応を見せたのか分からない。
もしかしたら、一杉君も私みたいに、ミーハー達が騒ぐような代物にはうんざりしているとか。

なんて軽い混乱を覚えると、今度は遠くの方で私を呼ぶ声が聞こえた。