「あっ、そう言えば朝倉さん大丈夫だった?結構大事になってたから」

すると、ようやく私の存在に触れてくれた瀬川さんは、急に神妙な面持ちへと変わり、心配そうな目をこちらに向ける。
その振る舞いが何とも白々しいなと思いながらも、私は作り笑いで首を縦に振った。

「ありがとう、お陰様で何とか。一杉君には迷惑を掛けちゃったし、ごめんなさい」

とりあえず、事故と言えども人の彼氏にお姫様抱っこで保健室に運ばれたことに若干の罪悪感を感じながら、私はまたもや軽く頭を下げる。

「そんなの気にしないでよ!それが圭太君なんだし」

全く気にする素振りを見せずに、花が綻ぶように笑う瀬川さんの言葉は果たして本心なのかどうなのか。
そんな捻くれた考えが頭をよぎりながら、私も笑顔を返す。

そして、そのまま部活へと戻っていく二人の後ろ姿を見送りながら、私は深いため息を吐いた。

これから自分があの瀬川さんの為に、探し物をしなくてはいけないと思うと本当に憂鬱で仕方がない。

瀬川さんとは去年クラスが一緒で、その時から私は彼女の事が少し苦手だった。

瀬川さんも一杉君のように誰にでも愛想を振りまくとても可愛らしい子だと思うけど、何だか裏表がありそうで素直に良い子だと受け止める事が出来ない。

そう思えたのは、ある放課後、外でデッサンをしようとたまたまグラウンドの脇を通りかかった時、バスケ部のマネジャーをしている瀬川さんが、先輩達に普段仲良くしているクラスメートの悪口を堂々と口にしていたのを聞いてしまった事が要因だ。

それから彼女の笑顔が何だか嘘っぽく思え、私は当初からあまり深くは関わらないように避けていた。