「…………F組の瀬川美菜。僕の幼馴染だよ」

暫しの沈黙が流れると、ようやく発した相馬君の言葉に、私は目が点になった。

瀬川美菜とは、ついさっきまで夏帆が話題にしていた人物だ。

つまりは……。

「それって一杉圭太の彼女じゃない」

ここはもう少しオブラートに包んで言えば良かったのかもしれないけど、今の私にはそんな余裕なんてない。

「そうだよ」

しかし、相馬君は取り乱すこともなく、とても落ち着いた様子で首を縦に振った。

そんな相馬君の言動に、私の頭の中は再び混乱の渦へと巻き込まれていく。

何で相手に彼氏がいると分かっているのに、そこまでする必要があるのだろうか。
そんなの、ただ辛いだけなのに。
それとも、よっぽどその人に自分の想いを伝えたいのだろうか。

確かに、そんな人も中にはいるかもしれない。

そもそもとして、校内でも人気を誇る瀬川美菜がこんな冴えない人の幼馴染である事が驚きだ。
……まあ、見た目は関係ないのだろうけど。


色々な思惑が入り乱れる中、私はそれを払拭するように軽く頭を振る。

「……分かったわよ。とりあえず、そのハピネスベアーのストラップを探しだして、文化祭前にあなたの意識が戻らなかったら、私がその瀬川美菜に渡せばいいんでしょ」

そして、視線を明後日の方向に向け、遠い目をしながら事の次第を整理する。

「なんだか随分と投げやりだね」

そんな私の態度に、相馬君は苦笑いで痛いところを付いてきた。