「……やっぱり朝倉さんって可愛い人だね。本当にそんな所僕も好きだな」

すると、そんな私を暫くじっと見つめた後、全てを溶かす程の甘い笑顔を向けてきて、欲しい言葉を躊躇いもなくくれる。私とは対象的な、とても素敵な人。

……ああ、なんかどうしようもなく甘酸っぱい気分。

これが、恋人同士というものなんだ。

相馬君と付き合い始めてから幾度となく感じた、この幸せで宙に浮くように軽くて、甘い、愛しい気持ち。

あの時、看板が私の頭上に落ちてこなかったら、きっとこんな経験なんて出来なかっただろう。

それによって辛い記憶も残ってしまったけど、それ以上に私は相馬君に出会えた事が何よりも貴重で大切で、かけがえのない出来事だった。


……どうしよう。

もう好きな気持ちが抑えられない。


暫く見つめ合う中、胸の高鳴りが最骨頂に達してきて、相馬君に触れたくなってくる。

向けられる相馬君の視線も熱く感じて、もう何も考えられなくなってきた。


それから、気付けば徐々に近付いてくる相馬君の綺麗な顔。

瞬間的に分かった、彼が今しようとしている事。

初めてだからどうすればいいのか全然分からないけど、期待と緊張で私の鼓動は思いっきり暴れ出し、恥ずかしさのあまり体が震えてきて、目をきつく瞑る。

そして、夢にまで見た瞬間を待ち望んだ時だった。


「…………ごめん」

待てどもその時は一向に訪れる事はなく、その代わり相馬君の呟いた一言と同時に彼の息遣いが私から離れた。

「……え!?ど、どうしたの?」

なぜ謝られたのかが分からず、ショックを隠しきれない私は目を見開いて、焦り気味に彼に尋ねる。

「…………いや。もしかしたら、また君に怖い記憶を思い出させちゃったかなって……」

私から視線を逸らし、暫く思い詰めるように口を閉ざしていると、相馬君は神妙な面持ちでぽつりとそう話す。

その彼の言葉に、私は打ちひしがれた。


……違う。

私が震えてたのは、そうじゃないのに。

まさか、相馬君はまだあの事を引き摺っていて、責任を感じているの?

そもそも、看板に当たった時から、私はそうなる運命だった。
けど、相馬君に出会えたから、こうして大事に至らずに済んだというのに……!