※※※





「……それで、夏帆が納得するまで暫くかかったんだから」

一日の授業が終わった放課後、私は今日も屋上へと上がり、そろそろ終盤まで差し掛かった油絵に色を重ねる。

「それは大変だったねえ。確かに、僕らの馴れ初め話なんて誰も信じてはくれないか」

若干不貞腐れ気味に今日の出来事を話す私とは裏腹に、その横に座って、終始面白おかしそうに聞いている相馬君の態度に、私は更に頬を膨らませた。

「それより、相馬君また告白されたんだ。その姿になってから本当にモテるようになっちゃったね」

それから、夏帆が言っていた部活の子の話を思い出し、益々不機嫌になってく気持ちがどんどんと漏れ出てしまう。

「……うーん、そもそも僕がイメチェンしようと踏み込んだのは、全部朝倉さんに見てもらいたくて頑張ったからなあ。凛と華に今のままじゃ絶対ダメだって言われちゃったし。……でも、君が不満なら元に戻そうか?」

すると、何食わぬ顔で恥ずかしいことを平気で言って退ける相馬君に、私は思わず持っていた筆を落としそうになってしまった。

まさか相馬君のこの姿が私の為だったなんて、考えもしなかった。
しかも、せっかくここまで変えてくれたのに、私の勝手な嫉妬心のせいで簡単にそんな事が言えるの?

「…………もう、相馬君って本当にそういう所ずるいよ……」

無自覚なんだろうけど、彼の優しさによって何気なく発せられるこの心臓を鷲掴みにされる発言。

その度に、私はまたどんどん相馬君の沼へと沈んでいって、思わず小言を漏らす。

「正直、私はどの相馬君でもいいけど……そこまで頑張ってくれたんだし、凛ちゃんと華ちゃんにも申し訳ないからそのままでいいよ。……それに、今の方が相馬君の素顔がちゃんと見れて……好きだよ」

本当は相馬君の気持ちに対して、もっとしっかり感謝の言葉を送りたいのに、やっぱり上手く出来なくて。でも、最後には自分の正直な気持ちを伝えようと努力をすることにした。

だから、どんなに恥ずかしくても、彼を傷付けるような真似だけはしないように。

私は全身に熱が帯びてくるのを感じながら、震える声で精一杯彼に本心を伝えた。