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「それでさあ、聞いてよ由香里!この前デートしてたら私が横に居るのに可愛い店員さんをガン見しててさぁ……」

「ねえ、あんたそれ人の事全然言えないよね?」

二限目が終わり、三限目は音楽の授業のため音楽室へと向かう途中、私は頬を膨らませながら彼氏の愚痴を溢す夏帆に思いっきり突っ込みを入れる。

「ぜ、全然違うよ!私は流石に………っあ!」

痛い所をつかれたのか。夏帆は焦りながらも顰めっ面になって反論しようとした所で突然動きが止まった。

「相馬君だ!」

視線を窓越しに向けて凝視する姿に、一体何がどうしたのか不思議に思った瞬間、彼女から発せられた名前に私までも動きが止まる。

「やっぱり、爽やか子犬系イケメン男子って最高だよねー」

そして、目を輝かせながらいつものミーハーっぷり全開の夏帆に、この子が反論する余地なんて何処にもないと確信した私。

それから夏帆に気付かれないよう、私もうっとりしながら友人達と中庭を歩く相馬君に見惚れる。

「そう言えばさあ、前にうちの部活の子が相馬君に告ったんだって。そしたら、彼女いるからって断られたんだってさあ。やっぱりイケメンは彼女持ちって鉄板なんだねー」

すると、思いもよらなかった夏帆の爆弾発言に、私は危うく声をあげそうになるのを、すんでのところで何とか堪えた。

あれから校内では相馬君人気が爆上がりをしてしまい、恐れていたとおり結構な頻度で女子からの告白を受けるようになってしまった。

それについては相変わらず腹立たしくはあるけど、こうして“彼女”と言ってくれた事に胸がじんわりと熱くなって、フワフワとした気持ちになる。

そう浮かれながらも、丁度彼女の話題が出てきたところで、そろそろ夏帆にもちゃんと伝えた方がいい気がした私は、小さく拳を握った。

「……あ、あのさ……」

いつかは言おうとは思っていたけど、いざその時になると声が震えてしまう。

「どしたの?」

なかなか切り出してこない私を不審に思う夏帆の視線を一身に受けながら、私は覚悟を決める。