瀬川さんが屋上からいなくなり、相馬君もこの場を離れようと一歩足を踏み出したタイミングで、私は室外機から姿を現す。

「あ、朝倉さん!?いつからそこに居たの!?」

まさかの私の登場に、相馬君はかなり驚いたようで、大きく見開いた目をこちらに向けてきた。

「ごめん、実は二人が来る前から。ここで絵を描こうと思って来たんだけど、そしたらタイミング悪く居合わせちゃって……」

本当は最後まで出てくるつもりはなかったのに、二人が抱き合っている所を見せられ、悔しさのあまりつい体が勝手に動いてしまった。

「っあ、そっか。……それじゃあ、僕達のやり取りずっと聞かれてたんだね」

そう言うと、相馬君はバツが悪そうに頬を赤く染めながら、私から視線を逸らす。

その反応が益々悲しくなってきて、私は密かに拳を強く握りしめた。

「……ねえ、相馬君って女の子の扱いが随分手慣れてるよね?……瀬川さんにもああやって簡単に抱き締めてあげるんだ」

相馬君が退院してから初の顔合わせだというのに、退院祝いの言葉どころか、嫉妬心丸出しの憎まれ口を真っ先に叩いてしまい、自己嫌悪に陥りながらも止めることが出来なかった。

「うーん、美菜は小さい頃からずっと一緒だったから、なんか兄妹みたいな感じなのかな?朝倉さんは……なんか勢いで。多分凛と華の影響かな。そのせいで距離感狂ってるかも」

そんな私の気持ちを他所に、相馬君はさほど気にしている様子もなく、暫く視線を上に向けた後、はにかむような笑顔をこちらに向けて答える。


つまりは、私も瀬川さんも凛ちゃん華ちゃん感覚と一緒ってこと……?

……ていうか、もうそれ距離感の域超えてるから。


そんな笑顔に不覚にも胸が高鳴ってしまうが、まるでとどめを刺されたような相馬君の言葉に、私の舞い上がっていた気持ちは完全に奈落の底へと落とされていく。

やはりというか、流石というか。
とにかく、今まで浮かれてた自分が何だかバカみたいに思えてきて、私は密かに肩を落とした。


「とりあえず、相馬君改めて退院おめでとう。ちょっと前に連絡したけど全然既読つかなかったから、こうして会えてよかった」

一先ず気持ちを落ち着つかせ、私はようやく伝えたかった言葉を相馬君に話す事が出来て、胸の突っ掛かりが少し柔いだ気がした。