「……ありがとう、悠介。……自分勝手に避けてきた癖に結局こうして都合よく甘えてくるなんて嫌な幼馴染だよね。……本当……ごめんなさい」
それから、暫く嗚咽と瀬川さんの涙をすする音だけが聞こえてくると思いきや、急に人が動く音と服が擦れる音がして、私は咄嗟に室外機の隙間から顔をのぞかせてしまった。
「いいよ。何年の付き合いだと思ってるの?それに、今に始まった事じゃないよね?」
目の前に映るのは、泣いてる瀬川さんを抱き締めている相馬君の姿。
その上、くすくすと笑いながら、まるで子供をあやすように瀬川さんの頭を優しく撫でている。
瀬川さんも、相馬君に抱き締められて満更でもないのか。涙を浮かべつつも、同じように笑顔で彼を抱き締め返していた。
私はその光景を目の当たりにして、思わず手に持っていた画材道具を落としそうになるのを既のところで堪える。
夢だと思いたかった。
今見ているのは何かの間違いで、全部嘘であって欲しかった。
けど、頬を掠める冷たい風が、現実なんだと知らしめてきて、私の涙腺が徐々に緩み始めてくる。
同じだ。
病院のベンチで相馬君と抱き合ったあの時と。
やっぱり、あれは特別ではなかったんだ。
あの時は、まるで両思いなのかなって気がしていたけど、それはただの私の誤解だったということが確信めいて、これまで密かに抱いていた期待が音を立てて崩れ始めてくる。
そうこうしていると、暫く抱き合っていた二人は何事もなかったように離れると、程なくして瀬川さんは部活へ行くため、足早にこの場を後にしたのだった。