「夏帆、戻ろう!」

私はどんどんと沸き起こってくる負の感情に押し潰される前に、早くここを立ち去ろうと、一向に動こうとしない夏帆の腕を思いっきり引っ張った。

「ええ!?もう帰るの?私もっと見たいー!」

「だから、あんたは彼氏いるでしょ!早く行かないとご飯食べる時間なくなるから!」

私はなるべく怒りの感情を表に出さないように、適当に理由をつけて、駄々をこねる夏帆を無理矢理引き摺り自分の教室へと連れて行く。


夏帆には申し訳ないけど、これ以上彼を見て欲しくないし、夏帆だけじゃなくて、他の女子達も相馬君の事をミーハーな目で見て近付いて欲しくない。

瀬川さんも、もしかしたら人気者になった相馬君に心変わりをしてしまうかもしれない。

そうなったら、相馬君は瀬川さんの気持ちに応えるのかな?

この前お見舞いに行った時、両思いなのかもって密かに期待していたけど……。

そもそも始めの出会いから相馬君は瀬川さんの事をずっと想っていた。

それは、そういう事情があったからだけど……、大切だと言った相馬君の言葉の意味が結局どういう事なのか、まだよく分からない。

分からないから不安になるし、嫉妬ばかりしてしまう。


まさか、自分がこんなにも欲深い人間だったなんて……。

色恋沙汰なんて自分には無縁だと思っていたけど、相馬君と出会ってから全てが狂い出した。

相馬君と抱き合った時は、全てを忘れるくらい幸せで、フワフワした気持ちになれたというのに……。

彼の気持ちが分からなくなると、こうもまた直ぐに気分が沈んでしまうなんて。