「……ありがとう。君がそう言うのなら、もうこの話をするのはやめるから」

ようやくいつもの穏やかな声に戻り、私を宥めるように優しく頭を撫でてくれる相馬君。

その心地良さに胸が高鳴って、大好きな気持ちが止めどなく溢れ出してきて、気付けば私も相馬君の背中に手を回していた。

「ねえ、暫くこうしてても平気?」

すると、願ったり叶ったりな相馬君の問いかけに、私の心臓はまたもや大きく跳ね上がる。

「こうして朝倉さんの温もりをしっかり感じれられて……君にちゃんと触れられることが出来て……凄く嬉しいんだ」

抱きしめられている為、ここからじゃ彼の表情が見えない。

でも、心の奥底に染み混むような優しい声が、彼の気持ちを良く表してくれている。

それから、相馬君も私と同じ気持ちであることに、密かに口元を緩ませる。

相馬君の小刻みに震える鼓動が良く聞こえてくる。

相馬君も、私の早い鼓動を感じているだろうか。


そうやって、つい夢心地に浸ってると、なかなか私からの返事が来ないのが不安になったのか。
急に相馬君は抱き締めていた手を緩めてきた。

「……なんて、ごめん。これじゃあ、ただの変態だよね」

そう言うと相馬君は頬を染めながら自嘲気味に笑い、離れようとしたところで私はふと我に帰る。

包み込まれていた温もりをまだ手放したくなくて、私は逃さまいと今度は自ら彼の胸の中へと飛び込んだ。

「相馬君がお望みなら、ずっとこのままでいいよ。ていうか、私もそうしたいから……」

まさか自分がこんな行動を取るなんて、我ながらびっくりだ。
顔は見えないけど、きっと彼も驚いていると思う。

しかも、もうこれってお互い告白みたいなものなのかな……?

なんて、自惚れながらも、このひと時がとても幸せで、穏やかで。

あの時の嫌な記憶がどんどんと薄れていって。

この時間がずっと続けばいいと、心からそう願った。


それから、私達は暫く何も言葉を発する事なく、青空の下、ただひたすらにお互いの温もりを感じながら存在を確かめ合ったのだった。