「それじゃあ、お姉ちゃんも来た事だし、私達そろそろ帰るね」

すると、何かを感じとったのか。凛ちゃんは相馬君から離れると、隣にいた相馬君のお母さんの腕をぐいぐいと引っ張った。

「お姉ちゃん、バイバイ。お兄ちゃんと仲良くね」

そして、意味深げに可愛いウインクを飛ばして去って行く凛ちゃんの言葉に、私達は一気に顔が赤くなってしまった。
 


「………」


その場に残った私と相馬君の間に妙な沈黙が流れる。

「……ねえ、相馬君。あの二人って本当に小学生?」

「うん。僕もそれよく思う」

気まずさに耐えかねず、頭にふと浮かんだ言葉をそのまま口にしてみると、すかさず相馬君は苦笑いを浮かべながら小さく頷いた。

もしあの二人があのまま成長したら、相馬君はこれからもっと苦労するかも……。

なんて、彼に少しの同情心を抱きながら、私は一先ず持ってきた小さな花束に、ポケットから取り出した例の物を添えて相馬君にそっと渡した。

「……これは……」

花束と一緒に受け取った、あのボロボロのハピネスベアーを見て、相馬君は暫く唖然とした。

「あの後相馬君と別れてから校外の塀沿いにあったのを偶然見つけたの。……これとこの前の事で相馬君の目的はもう全部分かったから……」

私は硬直する相馬君の隣で、多くは語らずただ要点だけをしっかりと伝える。

「……ねえ、相馬君。私……」  

それから、ずっと謝りたかった気持ちを口にしようとした時、相馬君は急にベットから起きだし、受け取った物を脇にあるシェルフに置いた。

「朝倉さん、場所変えよっか?」

まるで私の言葉を遮るように、相馬君はにっこり笑うと、私の返事を待たずに立て掛けてあった上着を取り出して入口まで歩き出す。

確かに他の人達が居る場所で話せる話しでもないので、私は黙って相馬君の後にくっ付いていったのだった。