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瀬川さんの行方を探してかれこれ三十分が経過。

出来れば近付きたくなかったけど、致し方なしにと、私は手始めにバスケ部を覗いてみる。
しかし、タイミングが悪かったのか瀬川さんの姿はまたもや何処にも見当たらなかった。

一方、一杉君は女子生徒だけではなく、若い女性客にまで囲まれていて、こちらの存在には全く気付く様子はなく、私は見つかる前に一目散にその場から立ち去った。


「……はあ、どこ行ったんだろう……」

人がいそうな所は全て見回ったはずなのに、瀬川さんはどこにも居なかった。
普段はいつも誰かと一緒に居るところを良く見かけるのに、今日に限って全く出会えないなんて……。

もう探せる所は探し尽くしてしまい手詰まりとなった私は路頭に迷いながら、とぼとぼと廊下を歩いていた時だった。


「……あ!」

ふと何気なく窓越しに目を向けると、中庭を歩く瀬川さんの姿が視界に映る。

半分諦めかけていたところで、ようやく見つけることが出来、私は見失う前に急いで来た道を引き返すと、駆け足で彼女の元へと向かう。



「瀬川さんっ!!」

朝からずっと探していた分、逃さまいという気持ちがかなり表に出てしまったようで、私はいつになく大きな声で彼女の名前を叫んだ。

「……朝倉さん」

切羽詰まった様子で呼び止められ、瀬川さんは一瞬目を丸くするも、私の姿を見るや否や、突然険しい顔付きへ変わり、こちらを思いっきり睨んできた。

「来ないでよっ!今はあんたに一番会いたくないっ!」

威嚇するように怒鳴る瀬川さんの目は赤く腫れていて、何だかやつれているように見える。

その姿に、私は少しだけ同情してしまった。

確かに、恋人達にとってこの文化祭というのは大きなイベントであって、学校行事の中では一番期待に胸を膨らませていたと思う。

瀬川さんだって私みたいに大好きな人と一緒に過ごす事をずっと考えていたのだろう。

けど、非常にも朝一からその期待は裏切られ、絶望へと突き落とされた。

これがもし自分だとしたら、きっと同じ状態になっていたと思う。
しかも、目の前には自分の恋敵がいる。

こんな最悪の状況下で、しかも、こんなストラップを渡すなんて、もはや私が瀬川さんをいじめているようにしか見えない。


でも、これを果たさないと、今までの相馬君の苦労が全て水の泡となってしまう。

だから、私はポケットに入っているハピネスベアーを握りしめると、瀬川さんの牽制を無視して距離を詰める。


「……っ!来ないでって言ってるでしょ!!」

しかし、私が近付いてきた瞬間、瀬川さんは大粒の涙を溢し始めると、急に踵を返して逃げるようにこの場から駆け出してしまった。

せっかくの決意が虚しく空振り、取り残されてしまった私は走り去る瀬川さんの後ろ姿を呆然と眺める。