「それと、もう一つ聞き捨てならないんだけど、由香里の好きな人ってなに!?私初めて聞いたんだけど!?」

ほっと息をついたのも束の間。
今度は一番触れて欲しくない所に注目され、私は今まで以上に肩を振るわせてしまった。

「え、えっと……」

どうしよう。

相馬君の事は一杉君の事より事情が複雑過ぎる。

それこそどう説明すればいいのか全く分からない。

事故に遭った時は私もよく知らなかったし、最近知り合ったって言っても今入院中だし……。

「そのうち話す!」

だから、もう全く答えになっていない答えで無理矢理押し通すしかなかった。

「はあ?何それ?」

分かってはいたけど、全然納得していない様子の夏帆は尚も抗議をしようとしたところで、部活の先輩から着信があり、何とかそれは無事に阻止された。

「……それじゃあ、私もう行かなきゃだから。後で絶対に教えてよね!!」

不服そうな顔付きで夏帆は私を軽く睨むと、そう強く言い残して足早に教室を後にしたのだった。


親友に打ち明ける事が出来ない状況に、私は罪悪感を抱えながら夏帆の後ろ姿を見送ると、再び深い溜息をひとつ吐く。

それから教室内を見渡すと、いつの間にか一杉君も居なくなっていて、私は慌てて教室を飛び出した。

とりあえず、まずは瀬川さんが持ち場に着く前にこのストラップを渡さないと!

そう思い、急いで隣のクラスを覗いてみたものの時既に遅しで、瀬川さんの姿は何処にも見当たらなかった。

念の為近くにいたクラスの子に聞いたら、何やら一杉君に呼ばれたあと、そのまま勢い良く何処かへ走り去ってしまったところを目撃したとか。

その話を聞いた途端、私は先程の一杉君が言っていた事を思い出し、暫くはそっとしておこうとストラップをポケットに戻したのだった。