「朝倉さん、おはよう」

まさかと思っていたその声に、私は動きがピタリと止まった。

……え?なんで?

そう思いながら、まるで壊れたロボットのようにぎこちなく振り向くと、そこには先程まで女子に囲まれていたはずの一杉君が、こちらに満面の笑みを向けながら立っていた。

「……あ。い、一杉君おはよう。し、執事コス似合うね」

とりあえず、夏帆の前だけあって不自然にならないよう何とか笑顔を取り繕って挨拶を返す。

「ありがとう。朝倉さんにそう言われるのが一番嬉しいな。そっちは衣装ないの?」

隣で固まっている夏帆には一切目もくれず、さらっと恥ずかしい事を言って退ける一杉君に、私は段々と冷や汗が流れ始める。

「美術部は展示だけだから何も無いよ。特段イベントもやらないし」

そう。
うちの部は全体的にお祭り騒ぎがあまり得意でない子が多い為、満場一致で今回の文化祭は展示のみと決まった。

だから、店番は一人か二人居ればあとは事が足りるため、文化祭中はほぼ自由に動けるのだ。

そんなこんなで、私は一杉君に簡単に説明するも、先程から槍のように突き刺さってくる女子達の視線のせいで声が震えそうになる。

「……そっかあ。それじゃあ、朝倉さん四時頃って暇?その時少しだけ会えないかな?」

「へっ!?」

すると、一杉君の突然のお誘いに、私は思わず変な声を上げてしまった。

まさかこんな人がいる中でそんな事を言われるとは夢にも思っていなかったので、流石に動揺を隠しきれない。

「い、一杉君は瀬川さんと一緒にいるんじゃないの!?」

だから、周りの目を気にする余裕はなく、私はなりふり構わず瀬川さんの存在を指摘する。

「うん、あれからちょっと考えて。美菜とは距離を置くことにしたんだ」

そして、これまた一杉君の衝撃的な一言に、私はもはや言葉を失ってしまった。