「………………はっ?」

暫く間を空けてから、ようやく反応を見せた私。
それは、あまりに唐突な要求で、言葉の意味を理解をするのに少し時間がかった。

「いきなり何言ってるの?ていうか、あなた私に触る事出来るの?」

段々と冷静になり始めた私は、彼の目を見ながら静かにツッコミを入れる。

「……そういえば、そうだね。違和感なかったから全然何とも思わなかったけど」

私の質問に対し一瞬面を食らった男子生徒は、興味津々な表情で今度は私の腕を触り始めた。

その瞬間、再び体が小さく震える。
相手はそんな気なんて全くないのに、免疫のない私はいちいち反応してしまう。
そんな自分が嫌だと思いつつ、ふと気付いたある違和感。

それは、触れられている筈なのに彼の体温が何も感じないこと。
体温どころか、触れられている感覚すらない。
あまつさえ、その手を振りほどこうとしてみたら、簡単にすり抜けてしまった。

さっきは突然の事にそこまで頭が回らなかったけど、今更にしてようやく自分の身に起こっている現象が実感出来、再び全身の血の気が引いていく。

そして、今目の前に立っている人物は、本当に“実体のない存在”であることがこれで証明された。

ふらりと眩暈が襲う。
出来ればそのまま気を失いたかった。


これはきっと悪い夢だ。
もう一回目を覚ませば、全てがなかった事になるに違いない。


……なんて、思ってはみたものの。
このハッキリと研ぎ澄まされた感覚が、そんな都合良く事が収まるわけがないことを知らしめてくる。