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「由香里ー!見て!超可愛くない!?」

登校するや否や、教室で待ち構えていた夏帆は私の姿を見た途端すかさず駆け寄ると、淡い水色のワンピースに白いフリフリのエプロン姿をこれでもかというくらいに見せびらかしてきた。

「うちの部はメルヘン喫茶だから、私はアリスにしたんだー」

夏帆は少しはにかみながらも、頭に付けている黒いリボンを触りながら、嬉しそうに話す。

「うん、可愛いね。良く似合ってる。彼氏さんも今日来てくれるんでしょ?」

ゆるふわ系の夏帆と見事にマッチしているアリス姿を素直に褒めると、私は若干冷やかしの目で夏帆を見る。

「まあね。来たら一緒に回るつもり」

そんな私の視線を全くものともしない夏帆は、なんとも幸せそうな笑顔を浮かべながら首を大きく縦に振った。


……うん。微笑ましいなあ。


私はその笑顔に何だか癒しを感じる。

昨日は色々あったせいで、気持ちが淀んでいたけど、何だかんだで相変わらずラブラブっぷりの夏帆を見ると、昨日のドロドロとした感情が少し洗い流されていくような気がした。



「っあ、一杉君おはよう!」

「っえ!?一杉君執事コスなんだ!超格好いいー!めっちゃ似合うねっ!」

すると、突如教室中に響いてきた女子達の黄色い声。

私はその名前を耳にした瞬間、条件反射で夏帆の後ろへと隠れてしまった。

「きゃああ!由香里見て!一杉君マジでやばい!黒ベストに黒ネクタイとか、もう殺しにかかってるじゃん!」

「ちょっと、あんた!ついさっきまで彼氏とのラブラブっぷり見せてなかったっけ!?」

クラスの女子に負けないくらいの黄色い声を挙げながら興奮気味に私の腕を掴んでくる夏帆に、私は渾身のツッコミを入れる。

「それはそれ。これはこれ。いやあ、もう本当クラス同じとか私達マジで恵まれてるよねー。初っ端から一杉君の爆イケ姿見れるとか最高のスタートだわあー」

それを一刀両断された挙句、もはや視界には一杉君しか映っていないのか。夏帆の頭は完全に別の世界へと旅立ち、すっかり存在を忘れられている私。

……とりあえず、今は女子達に囲まれて大変そうだし、おそらく大丈夫だろう。

身動きが取れなさそうな一杉君の状況に少し安心した私は身を乗り出すと、一向に別世界から帰ってこない夏帆を現実世界に引き戻してあげようとした時だった。