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「……はあ、はあ」

本日何回目の息切れだろう。

まさか二度も我武者羅に走ることになるとは。

校門の外まで逃げてきた私は、再び乱れた呼吸を整えようと、塀に手を付きながらその場で立ち止まった。

暫くして、ようやく気持ちが落ち着き始めると、先程の出来事がじわりじわりと頭の中で蘇ってくる。

今になっても信じられない一杉君の告白。

ああは言ってくれたものの、やっぱり何で私なのか未だによく分からないし、本当に本心なのか疑ってしまう。

それよりも、瀬川さんはこれから一体どうなるんだろう……。

このまま彼から別れを切り出されるのか、それとも一杉君は私を諦めて、彼女にまた目を向けるのだろうか……。

……。

…………はっきり言ってそんなこと、どうでもいい。

生まれて初めての告白も、二人の行く末も、今は何も触れたくない。

とりあえず、もうこれ以上ここに居ても仕方がない為、私は帰ろうと一歩足を踏み出した時だった。


「……ん?」

塀沿いに生えている茂みの奥から、一瞬だけ見えたカラフルな色合い。

その瞬間、私はその場に立ちどまり、咄嗟に手を伸す。

そして、拾い上げた物が顕になった時、絶句した。


「……これは」

思わず独り言が漏れる。

握りしめている手は段々と震え始め、私は瞬きもせず目の前にある物を凝視する。


……そう。


見つけたのだ。


ついに。


てっきり校内で落としたんだとばかり思っていたから、まさか校外にあったとは盲点だった……。


おそらく、これが相馬君が落とした物。


カラフルな洋服が着せられてある、手のひらサイズの茶色いクマのぬいぐるみのストラップ。
首元には後から付けた物なのか、赤いミサンガが巻かれている。

それから、脇腹部分にはしっかりと“ハピネスベアー”という文字が刻まれていた。


……でも、これは本当に相馬君が落とした物でいいのだろうか。

確かに、ハピネスベアーと書かれている物だが、それは人にあげるにしては余りにも状態が悪かった。

まるで強く踏み付けられたように、ストラップにはハッキリと靴の跡が残っていて、全体的に潰れてしまっている。
所々避けている部分もあり、そこからは綿が飛び出ていた。

まるで悪意をもって誰かに踏まれたような、そんな無惨な姿のストラップ。

こんな見るに耐えない物を、相馬君は瀬川さんに渡したかったのだろうか?


私は益々相馬君の思惑が分からなくなり、頭の中には無数のクエスチョンマークが浮かび上がってくる。


兎にも角にも、何とか今日中に見つけ出す事が出来、私は安堵のため息を漏らすと、急いで相馬君に報告する為に駆け足で校舎へと戻って行ったのだった。