流石の私も一杉君の告白には心が揺れ動いた。

人にこんな風に褒められたことも、一目惚れだと言われたこともない私の顔は素直に赤くなっていく。

「可愛い。なんだかんだで照れてるんだ」

今度はそんな私の反応がお気に召したのか。
一杉君は悪戯に微笑むと、愛おしそうな目をしながらこちらを見てきた。

「……気持ちはありがたいけど、私好きな人いるから一杉君とは付き合えない」

これ以上見られていることに耐えられず、私は一杉君から視線を逸らすと、迷いもなくはっきりと自分の気持ちを伝えた。

出来ることなら、もうここから離れたい。

この雰囲気が何だか居心地が悪いし、一杉君には申し訳ないけど、今はそんな話をしたくはない。

「ごめん。私もう行くね」

だから、彼の返事を聞く前に、早くこの場から抜け出したくて勢いよく立ち上がった。

「待って」

すると、ほぼ同時のタイミングで一杉君は私の手首を掴んで引き止める。

「……ねえ、朝倉さん。なんで泣いてたの?」

そして、いつになく真剣な目で私を見上げてきた。

その表情と、一杉君の問い掛けに胸がざわついて私は返す言葉がなかなか出てこない。

「もしかして、君の涙の理由って、その好きな人のこと?」

けど、それを待たずして、一杉君は見事に図星を突いてきて、私は思わず目を大きく見開いてしまう。

「ち、違うよ!一杉君には関係のないことだから!」

当然ながら上手く誤魔化す言葉なんて思い浮かぶ筈もなく、私はもうやけになって無理矢理押し通した。

「……そっか」

すると、一杉君は掴んでいた手首を離すと、意外にもあっさりと引いてくれて、一瞬だけ拍子抜けしてしまう。

けど、その隙にすかさず階段をかけ降りて、私は一杉君から離れた。

「あ、あの。色々心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だから。それじゃあ、また明日ね!」

そして、とりあえず無理矢理でも笑顔を作ると、私は振り返ることなく一目散にこの場から走り去ったのだった。