「相馬君、瀬川さんのことはやっぱり諦めた方がいいよ。あの人、一杉君の事ばっかりで相馬君の事なんて全然見てくれないじゃん」

一応お見舞いには来てくれていたけど、その後の出来事が頭をよぎり、私は再び沸き起こってくる怒りに身を任せ、つい陰口を叩いてしまう。

彼に醜い姿なんか見せたくなかったけど、相馬君の純粋な想いが勿体無くて、やるせなくて、私は我慢が出来なかった。

「うん、そうだね。それは分かっているよ」

けど、相馬君にはそんな私の悲痛な叫びなんて全く響いてないようで、優しい笑顔を見せてきて動じる事なく、ゆっくりと頷く。

この前と同じ顔。
始めの時も、私は忠告した筈なのに、あの時と変わらない相馬君の笑顔。

それが余計に私の胸を締め付けてきて、頭の中は嫉妬の渦にどんどんと呑まれていく。

「……じゃあ、なんでそこまで想えるの?全部知ってるのに、なんでここまで出来るの?」

何とかそれが外に漏れ出さないように、私は身体をこわばらせて視線を足元に落とすも、震える声まではどうにも誤魔化せなかった。

「朝倉さん?どうしたの?」

そんな私の様子に違和感を感じたのか。相馬君は眉を下げて心配そうな面持ちで顔を覗き込んできた瞬間固まった。

「……なんで泣いてるの?」

目を丸くさせながら相馬君に言われて初めて気付いた自分の涙。

堪えていた筈なのに、無意識のうちに溢れ落ちていたようで、それを相馬君に見られてしまい、私はどう反応すればいいのか分からなくなった。

「……あ、これは……」

涙の理由はもう知っている。
けど、それを今この場で相馬君に伝えたところで、ただ自分が傷付くだけだということも。

だから、何も言えなくて、もうここから逃げ出したくて、気付けば体が勝手に動き出していた。

「待って、朝倉さん!」

それを引き止めようとしたのか。
相馬君は私の腕を掴もうと手を伸ばしてきたが、霊体のためそれは叶わず、空気を虚しく掴んだだけだった。

そんな彼の悲しい表情を横目で一瞬捉えたけど、早くこの場から離れたかった私は構わずに屋上の入口へと走り出したのだった。