高校は俺の学力なら当然トップ校に行けたが、嵐に合わせて定員割れの学校に進学した。備えあれば憂いなし、に基づいて行動するなら学歴はあった方が良いかもしれないが、それよりはラッシーチャンネルに何らかのトラブルが発生したり、チャンスが回ってきたりした時に小回りがきくように別の学校になることは避けたかった。俺が備えるべきは、ラッシーチャンネルのピンチとチャンスだ。
新たなファン層を獲得するための戦略的コラボも積極的に行った。
「ラッシーをよろしくお願いいたします」
スケジュール管理もコラボの共演者への事前挨拶も俺の仕事だ。ラッシーの評判には1点の曇りもあってはならない。人見知りの激しい嵐だが、いったん打ち解けて素を出せれば最高のパフォーマンスを発揮することができる。そのきっかけ作りもマネージャーの仕事だ。メンバーがそろったら、適度にアイスブレイクしてやる。嵐が嵐らしくいられるために。
コラボ相手の吟味も慎重に行った。純粋で人を疑わない嵐が悪い大人に騙されたり、トラブルに巻き込まれたりしないように目を光らせ、常に気が休まらなかった。備えあれば憂いなし。警戒するに越したことはない。毒をもって毒を制す。性格がよくない自分こそが、あらゆる悪意から嵐を守るにふさわしい。
高校生だからと舐めてかかってくる者も多い。1度として悪人に出し抜かれることはなかった。学校でもMyTV関係者でも不純な目的でラッシーに近づく人間は皆、俺という鉄壁に阻まれた。
「いいか? スキャンダルには気をつけろよ。MyTVerは好感度が命だからな」
「はーい!」
演者としての才能はラッシーには遥かに及ばなかった。しかし、アイディアマンとしての才能は自負している。ラッシーの魅力を存分に出せる企画を考えて舞台を用意し、ラッシーが演者に徹することができる環境を作り上げた。
マーケティング戦略もぬかりない。ついに、海外でラッシーチャンネルがバズり、爆発的に登録者数が増えた。これも計画通りだ。
しかし、計画通りにいかないことが一つあった。
「母さんがさ、俺がMyTVやってんの良く思ってないんだよね」
「意味わかんねえ」
ラッシーチャンネルの収益から計算すると、家計を助けるどころか嵐の母親より嵐の方が遥かに稼いでいるはずだ。
「汗水垂らして働くのが美徳だから、子供のうちから遊ぶだけで稼ぐこと覚えるなとか言い出してさ」
「はあ、嫌だね、頭の固い大人は。つーか、そんな親の言っていることいちいち真に受けんなよ、馬鹿」
俺は溜息をついた。偏見に満ちた考えを嵐に押し付けるのはやめてほしい。
「高校卒業したら、家出たら?」
「俺、だらしないからさ、まともに一人で出来るわけがないって母さんが。家のことしながら大学ちゃんと行くなんてあんたにできるわけないでしょって」
嵐の自己肯定感をそぐようなことを言うなんて許されない。誰にもラッシーチャンネルは奪わせない。何かにここまで執着したのは初めてだ。
「じゃあ、一緒に住む?」
大学に行くか、MyTV1本で行くかは迷ったが、現役大学生と言う肩書はプラスに働く。俺は一般入試、嵐はAO入試で同じ大学に合格した。放校にならないように単位の面倒は見るつもりだったが、生活の面倒も俺が見ればいい。
「やっぱり、俺、タキオンがいないと駄目だなあ」
「いいんじゃねえの、俺はいなくならねえんだから」
「でも、家出するなんて俺、親不孝息子だよなあ。忙しくて何年も父さんの墓参りも行ってないしさ」
「動画で黙らせればいい。お前の母さんも納得するくらいの最高に面白い動画撮ればいいだろ」
実際に中学時代に俺を目の敵にしていたボム太も俺たちのステージを見て文句を言わなくなった。圧倒的なパフォーマンスは人の心を動かせる。
「そうだよな!」
嵐にいつもの笑顔が戻った。
新たなファン層を獲得するための戦略的コラボも積極的に行った。
「ラッシーをよろしくお願いいたします」
スケジュール管理もコラボの共演者への事前挨拶も俺の仕事だ。ラッシーの評判には1点の曇りもあってはならない。人見知りの激しい嵐だが、いったん打ち解けて素を出せれば最高のパフォーマンスを発揮することができる。そのきっかけ作りもマネージャーの仕事だ。メンバーがそろったら、適度にアイスブレイクしてやる。嵐が嵐らしくいられるために。
コラボ相手の吟味も慎重に行った。純粋で人を疑わない嵐が悪い大人に騙されたり、トラブルに巻き込まれたりしないように目を光らせ、常に気が休まらなかった。備えあれば憂いなし。警戒するに越したことはない。毒をもって毒を制す。性格がよくない自分こそが、あらゆる悪意から嵐を守るにふさわしい。
高校生だからと舐めてかかってくる者も多い。1度として悪人に出し抜かれることはなかった。学校でもMyTV関係者でも不純な目的でラッシーに近づく人間は皆、俺という鉄壁に阻まれた。
「いいか? スキャンダルには気をつけろよ。MyTVerは好感度が命だからな」
「はーい!」
演者としての才能はラッシーには遥かに及ばなかった。しかし、アイディアマンとしての才能は自負している。ラッシーの魅力を存分に出せる企画を考えて舞台を用意し、ラッシーが演者に徹することができる環境を作り上げた。
マーケティング戦略もぬかりない。ついに、海外でラッシーチャンネルがバズり、爆発的に登録者数が増えた。これも計画通りだ。
しかし、計画通りにいかないことが一つあった。
「母さんがさ、俺がMyTVやってんの良く思ってないんだよね」
「意味わかんねえ」
ラッシーチャンネルの収益から計算すると、家計を助けるどころか嵐の母親より嵐の方が遥かに稼いでいるはずだ。
「汗水垂らして働くのが美徳だから、子供のうちから遊ぶだけで稼ぐこと覚えるなとか言い出してさ」
「はあ、嫌だね、頭の固い大人は。つーか、そんな親の言っていることいちいち真に受けんなよ、馬鹿」
俺は溜息をついた。偏見に満ちた考えを嵐に押し付けるのはやめてほしい。
「高校卒業したら、家出たら?」
「俺、だらしないからさ、まともに一人で出来るわけがないって母さんが。家のことしながら大学ちゃんと行くなんてあんたにできるわけないでしょって」
嵐の自己肯定感をそぐようなことを言うなんて許されない。誰にもラッシーチャンネルは奪わせない。何かにここまで執着したのは初めてだ。
「じゃあ、一緒に住む?」
大学に行くか、MyTV1本で行くかは迷ったが、現役大学生と言う肩書はプラスに働く。俺は一般入試、嵐はAO入試で同じ大学に合格した。放校にならないように単位の面倒は見るつもりだったが、生活の面倒も俺が見ればいい。
「やっぱり、俺、タキオンがいないと駄目だなあ」
「いいんじゃねえの、俺はいなくならねえんだから」
「でも、家出するなんて俺、親不孝息子だよなあ。忙しくて何年も父さんの墓参りも行ってないしさ」
「動画で黙らせればいい。お前の母さんも納得するくらいの最高に面白い動画撮ればいいだろ」
実際に中学時代に俺を目の敵にしていたボム太も俺たちのステージを見て文句を言わなくなった。圧倒的なパフォーマンスは人の心を動かせる。
「そうだよな!」
嵐にいつもの笑顔が戻った。