「泣かないって約束破ってごめんなさい」
 スイは泣きじゃくっている。
「ノーカンだろ。俺が助けに行くって約束守れなかったんだから」
 9歳の頃、俺は自分を無敵のヒーローだと思っていた。でも、俺は結局友達1人救えなかったわけで。親同士が意図的に連絡を遮断するだけで簡単に音信不通になるくらい無力な子供だった。
「ごめんな。助けてやれなくて」
 涙で濡れた頬に触れると、俺の存在を確かめるようにスイが俺の手に触れる。
「よかった。メアド変わっちゃったの、約束忘れて勝手に変えたからじゃないって分かってもらえて」
「そんな状況なら忘れられてる方がマシだったよ。俺と連絡とる暇もないほど東京で楽しく過ごしてる方が良いに決まってんだろ」
 俺は気づいてしまった。秘匿するつもりだった過去を話したのは「俺の誤解を解くための必死の言い訳」だったのだと。そんなつもりじゃなかったのに。
「悪かったな、嫌なこと思い出させて」
「ううん、もう大丈夫。こーちゃんにまた会えたから」
 弱々しい笑顔を向けるスイはとても大丈夫そうには見えなかった。強引にでもそばにいてやらないと、取り返しがつかないくらい壊れる。
「俺さ、今日泊まってもいい?」
「え、泊まってくれるの?」
 自惚れかもしれないが、スイの目に少し光が戻ったように見えた。
 突然の申し出にも関わらず、スイのおばあさんは好意的に受け入れてくれた。晩御飯までごちそうしてもらった。
「翠星が小学校の頃はずっと紅星君の話ばっかりだったのよ。かっこよくて優しいお友達がいるんだって」
「本人にばらさないでよ」
 おばあさんの言葉にスイが恥ずかしそうに俯く。
「俺も、中学に入ってからも西小出身のやつらにスイのこと自慢してました。俺にはすごい友達が東京にいるんだぞって」
 これはリップサービスではなく、紛れもない事実だった。俺は「すごい友達」を自慢していた。スイのエピソードは俺と同じ南小学校出身のやつらが証人だった。

「さっきの話、本当?」
 布団に入ったあとスイが聞いてきた。
「ああ。一番仲いい友達がすげー頭良くて、星空のことだったらなんでも知ってるって」
 窓の外には、紅色の星と翠色の星が見える。俺たちを象徴するあの星たちの名前を教えてくれたのはスイだ。あの頃の俺たちの毎日は、星空よりも太陽よりも輝いていた。