スイは中学受験に成功し、東京の超難関名門校に合格した。田舎の小学生だった俺でも知っている有名大学の附属中学。外部受験組と小学校からのエスカレーター組で派閥はあったものの、ビーストカードが好きな外部生同士で仲良くしていた。
なんか女っぽいから、ちょっと受け答えがずれているから、最初の理由が何だったかは分からない。一部のガラの悪い内部生の癪に障ったのか、聞こえるように悪口を言われた。クラスでも浮き始めて、友達からも距離を取られるようになった。
一人ぼっちの夏休みの夜、空を見上げたけれど東京の空は白熱灯が明るすぎてペルセウス座流星群はほとんど見えなかった。それでも、空の魚に届くように、こーちゃんに会いたいと唱え続けた。
暴力を振るわれるようになっても泣かなかった。だって、こーちゃんと「泣かない」って約束したから。
大丈夫。大人しくしていればすぐ終わる。そう自分に言い聞かせたけど、やっぱりきつい。こーちゃんに助けてほしくてダメ元で、こーちゃんの家の電話番号にかけた。こーちゃんが出ることはなかった。仕方がない。こーちゃんは野球部のエースになっていて練習で忙しいはずだから。
友達にだけ教えたはずのメールアドレスには捨てアドから毎日誹謗中傷メールが大量に届いた。でも、アドレスは絶対に変えなかった。だって、こーちゃんからの連絡はこのアドレスに来るんだから。2年生になって、こーちゃんがケータイを買ったら絶対に連絡をくれるはずだから。たった1枚の2人で撮った待ち受けの写真を見れば、明日も頑張れる気がした。
3学期、事件は起こった。体育館裏に連れていかれて、ポケットに入れていたケータイを取り上げられた。頭が真っ白になった。今まで私物に手を出されたことはなかった。なのに、何でよりにもよって。
「返して!」
押さえつけられても、初めて全力で抵抗した。こーちゃんとの唯一の繋がりだけは失いたくなかった。きっとあと1か月と少しで連絡が来るから、どうしてもそれまでは。
「こいつがこんなに慌てるの初めて見た。ケータイ依存症? 引くわ」
クラスメイトは笑いながらスイの目の前でケータイを焼却炉に捨てた。どんなに殴られても泣かなかったスイはその日初めて泣いた。
反応が面白かったのか、嫌がらせはエスカレートした。日に日にあざが増えた。心の中でずっと「こーちゃん助けて」とつぶやき続けた。いつか、こーちゃんが地球の裏側からでも助けに来てくれると信じたかった。ケータイは新しいものをすぐに買ってもらえたけれど、番号は変わった。もう、こーちゃんからの連絡は来ない。
こーちゃん助けて。必死の思いでもう1度だけ、家の番号に電話を掛けた。こーちゃんが出てくれることを信じて。出たのは母親だった。
クラスメイトのフリをして繋いでもらおうとしたものの、声変わり前の特徴的な声はすぐ見破られた。
「あなたまさか、翠星君? いい加減にうちの子につきまとうのやめてもらえるかしら」
電話はすぐに切られた。この世界に神様なんていない。
なんか女っぽいから、ちょっと受け答えがずれているから、最初の理由が何だったかは分からない。一部のガラの悪い内部生の癪に障ったのか、聞こえるように悪口を言われた。クラスでも浮き始めて、友達からも距離を取られるようになった。
一人ぼっちの夏休みの夜、空を見上げたけれど東京の空は白熱灯が明るすぎてペルセウス座流星群はほとんど見えなかった。それでも、空の魚に届くように、こーちゃんに会いたいと唱え続けた。
暴力を振るわれるようになっても泣かなかった。だって、こーちゃんと「泣かない」って約束したから。
大丈夫。大人しくしていればすぐ終わる。そう自分に言い聞かせたけど、やっぱりきつい。こーちゃんに助けてほしくてダメ元で、こーちゃんの家の電話番号にかけた。こーちゃんが出ることはなかった。仕方がない。こーちゃんは野球部のエースになっていて練習で忙しいはずだから。
友達にだけ教えたはずのメールアドレスには捨てアドから毎日誹謗中傷メールが大量に届いた。でも、アドレスは絶対に変えなかった。だって、こーちゃんからの連絡はこのアドレスに来るんだから。2年生になって、こーちゃんがケータイを買ったら絶対に連絡をくれるはずだから。たった1枚の2人で撮った待ち受けの写真を見れば、明日も頑張れる気がした。
3学期、事件は起こった。体育館裏に連れていかれて、ポケットに入れていたケータイを取り上げられた。頭が真っ白になった。今まで私物に手を出されたことはなかった。なのに、何でよりにもよって。
「返して!」
押さえつけられても、初めて全力で抵抗した。こーちゃんとの唯一の繋がりだけは失いたくなかった。きっとあと1か月と少しで連絡が来るから、どうしてもそれまでは。
「こいつがこんなに慌てるの初めて見た。ケータイ依存症? 引くわ」
クラスメイトは笑いながらスイの目の前でケータイを焼却炉に捨てた。どんなに殴られても泣かなかったスイはその日初めて泣いた。
反応が面白かったのか、嫌がらせはエスカレートした。日に日にあざが増えた。心の中でずっと「こーちゃん助けて」とつぶやき続けた。いつか、こーちゃんが地球の裏側からでも助けに来てくれると信じたかった。ケータイは新しいものをすぐに買ってもらえたけれど、番号は変わった。もう、こーちゃんからの連絡は来ない。
こーちゃん助けて。必死の思いでもう1度だけ、家の番号に電話を掛けた。こーちゃんが出てくれることを信じて。出たのは母親だった。
クラスメイトのフリをして繋いでもらおうとしたものの、声変わり前の特徴的な声はすぐ見破られた。
「あなたまさか、翠星君? いい加減にうちの子につきまとうのやめてもらえるかしら」
電話はすぐに切られた。この世界に神様なんていない。