上級生をぶっ飛ばしたのは何年ぶりだろう。
南小学校は俺の兄貴の代くらいからガラが悪くなり、下級生いじめは日常茶飯事だった。比較的無差別攻撃に近かったけれど、中でもスイは弱そうに見えたのか標的にされることが多かった。当然のように見かけ次第全員ぶっ飛ばしてやった。
「ありがとう。こーちゃんは僕のヒーローだよ」
ヒーローと言われるのは悪い気はしなかった。
「俺の名前、紅星って赤い星って意味なんだぜ! 俺はスターレンジャーのレッドだな!」
「スターレンジャー……かっこいい! さすがこーちゃん!」
「スイも名前に星が入ってるだろ?」
「うん、緑の星」
「じゃあグリーンだな! スターレンジャー結成だ!」
思えばあの頃からずっと、俺を慕うスイが可愛かった。「お前可愛いな」って男に言うと怒るかと思ったけれど、嬉しそうに笑うスイが心底可愛かった。
スターレンジャーを名乗りだしてからは、俺たちは2人で「探検」によく行くようになった。ロマンチストで星空が大好きだったスイと夕方から夜にかけての裏山の独特な雰囲気が好きだった怖いもの知らずの俺は二人でしょっちゅう裏山に星空を見に行った。
小学校4年生になって、スイは塾に通い始めた。大体俺はその曜日は野球をしていた。ある日、みんなが忙しくて野球メンバーが集まらなかったのでお流れになった。暇だったので塾帰りのスイを誘って遊びに行こうと思って終わるくらいの時間に行ったら、塾の前の広場のようなところで3人くらいの男子に囲まれていた。体の大きい6年生っぽいやつがスイをどついた。どんなやり取りをしていたか分からないけど、他の2人も便乗し始めたし、スイの「やめて」という声が聞こえたので、近くに落ちていた石ころをでかい6年生の顔面に投げつけてやった。
「ストラーイク! ヒーロー参上!」
呆気に取られている残りの2人にも石ころをお見舞いしてやった。
「スリーストライク! バッターアウト!」
上手く当たったので調子に乗って決め台詞を言って指パッチンをしていたら、最初に倒した6年生に殴られた。背が高いだけあって相手の攻撃は結構重かった。顔面に頭突きをして反撃した。
「スイ! 逃げるぞ!」
相手が鼻血を出している隙にスイの手を取って逃げる。俺たちは全速力で裏山まで走った。スイは俺の次に、すなわちクラスで2番目に足が速かったので完全に撒けた。緊張の糸が切れたのかスイはしゃがみこんで泣き出した。
「怖かった……」
「お前さ、いつもあんな感じなの?」
「前から北小の子たちがやりたい放題やってて、先週髪引っ張られたからやめてって振り払ったら手が相手の子の顔に当たっちゃって、そしたら今日その子が6年生のお兄ちゃん連れてきた」
「なんでもっと早く俺に言わねえの?」
「だって、こーちゃん僕が塾行くの良く思ってなかったじゃん。だから塾のことで迷惑かけたくなかったのに、僕のせいでこーちゃん殴られちゃった、ごめんなさい……」
この時俺は少しイライラしていた。俺に相談しなかったこと。変に気を使ったこと。一人で抱え込んだこと。
「高学年にもなってぎゃあぎゃあ泣くなバカ! あとから泣くくらいならさっさと俺を頼りやがれ! 俺があんな雑魚に殴られたくらいでダメージ受けたとでも思ってるのかよ。なめるなよ。全然痛くねえよ」
本当はめちゃくちゃ痛かったけれど見栄を張った。スイはびくっとした後、きょとんとして俺を見つめた。
「俺はスイの友達で、俺はヒーローなんだからスイを助けるのは当たり前だろ。だから、悪いやつらにいじめられたら俺を呼べ」
「こーちゃぁん。ありがとう」
「お前が助けてって言ったら地球の裏側にいても助けに行ってやるよ。だからもう泣くなよ」
「うん。もう泣かない。約束!」
この頃の俺にとっての世界はこの島だけで、地球の裏側は島の端っこから端っこくらいのニュアンスだった。
南小学校は俺の兄貴の代くらいからガラが悪くなり、下級生いじめは日常茶飯事だった。比較的無差別攻撃に近かったけれど、中でもスイは弱そうに見えたのか標的にされることが多かった。当然のように見かけ次第全員ぶっ飛ばしてやった。
「ありがとう。こーちゃんは僕のヒーローだよ」
ヒーローと言われるのは悪い気はしなかった。
「俺の名前、紅星って赤い星って意味なんだぜ! 俺はスターレンジャーのレッドだな!」
「スターレンジャー……かっこいい! さすがこーちゃん!」
「スイも名前に星が入ってるだろ?」
「うん、緑の星」
「じゃあグリーンだな! スターレンジャー結成だ!」
思えばあの頃からずっと、俺を慕うスイが可愛かった。「お前可愛いな」って男に言うと怒るかと思ったけれど、嬉しそうに笑うスイが心底可愛かった。
スターレンジャーを名乗りだしてからは、俺たちは2人で「探検」によく行くようになった。ロマンチストで星空が大好きだったスイと夕方から夜にかけての裏山の独特な雰囲気が好きだった怖いもの知らずの俺は二人でしょっちゅう裏山に星空を見に行った。
小学校4年生になって、スイは塾に通い始めた。大体俺はその曜日は野球をしていた。ある日、みんなが忙しくて野球メンバーが集まらなかったのでお流れになった。暇だったので塾帰りのスイを誘って遊びに行こうと思って終わるくらいの時間に行ったら、塾の前の広場のようなところで3人くらいの男子に囲まれていた。体の大きい6年生っぽいやつがスイをどついた。どんなやり取りをしていたか分からないけど、他の2人も便乗し始めたし、スイの「やめて」という声が聞こえたので、近くに落ちていた石ころをでかい6年生の顔面に投げつけてやった。
「ストラーイク! ヒーロー参上!」
呆気に取られている残りの2人にも石ころをお見舞いしてやった。
「スリーストライク! バッターアウト!」
上手く当たったので調子に乗って決め台詞を言って指パッチンをしていたら、最初に倒した6年生に殴られた。背が高いだけあって相手の攻撃は結構重かった。顔面に頭突きをして反撃した。
「スイ! 逃げるぞ!」
相手が鼻血を出している隙にスイの手を取って逃げる。俺たちは全速力で裏山まで走った。スイは俺の次に、すなわちクラスで2番目に足が速かったので完全に撒けた。緊張の糸が切れたのかスイはしゃがみこんで泣き出した。
「怖かった……」
「お前さ、いつもあんな感じなの?」
「前から北小の子たちがやりたい放題やってて、先週髪引っ張られたからやめてって振り払ったら手が相手の子の顔に当たっちゃって、そしたら今日その子が6年生のお兄ちゃん連れてきた」
「なんでもっと早く俺に言わねえの?」
「だって、こーちゃん僕が塾行くの良く思ってなかったじゃん。だから塾のことで迷惑かけたくなかったのに、僕のせいでこーちゃん殴られちゃった、ごめんなさい……」
この時俺は少しイライラしていた。俺に相談しなかったこと。変に気を使ったこと。一人で抱え込んだこと。
「高学年にもなってぎゃあぎゃあ泣くなバカ! あとから泣くくらいならさっさと俺を頼りやがれ! 俺があんな雑魚に殴られたくらいでダメージ受けたとでも思ってるのかよ。なめるなよ。全然痛くねえよ」
本当はめちゃくちゃ痛かったけれど見栄を張った。スイはびくっとした後、きょとんとして俺を見つめた。
「俺はスイの友達で、俺はヒーローなんだからスイを助けるのは当たり前だろ。だから、悪いやつらにいじめられたら俺を呼べ」
「こーちゃぁん。ありがとう」
「お前が助けてって言ったら地球の裏側にいても助けに行ってやるよ。だからもう泣くなよ」
「うん。もう泣かない。約束!」
この頃の俺にとっての世界はこの島だけで、地球の裏側は島の端っこから端っこくらいのニュアンスだった。