翌日は晴れ渡る空の下、廃線をたどる冒険に早朝から出かけた。長い長い線路を俺たちはただただ歩いた。時にはしゃべりながら、風景の写真を撮りながらひたすら歩いた。
「こーちゃんって、『スタンド・バイ・ミー』は見たことある?」
「見たことない」
「映画の中で、こうやって線路を歩くシーンがあるんだ」
 映画『スタンド・バイ・ミー』の中で少年たちは死体を探して線路をたどるらしい。
「どうする?死体見つけちゃったら」
「ゾンビになって襲い掛かってくるかもな。大丈夫、俺が倒してやるよ」
 線路の終着点を掘り返したら何かあるかもと思い、俺たちはスコップを持ってきている。本当に死体が埋まっていたら困るけれど、何もないよりはいいのではないかと不謹慎ながら思った。
「もしかしたら、だれかがタイムカプセルを埋めてたりして」
「こんな山奥にか?」
「僕たちのタイムカプセルもだいぶ変則的な形だったから、1億人以上いたら誰かは変なところに埋めてるかもしれないよ」
 毎年誕生日に1つずつ開けた、マトリョーシカ型のタイムカプセル。それを開けたのももう4年前だ。書いたのは7年前、もう何を書いたか完全に忘れている。
「毎年すごく楽しみにしてたんだよ。こーちゃんからの手紙」
「俺も忘れなかったぞ。俺、だらしないから信じられないかもしれないけどさ」
「信じるに決まってるじゃん。こーちゃんって、そんなにだらしないかなぁ?全然そんな印象ないよ」
「そりゃどうも。スイって、自分でタイムカプセルに何書いたか覚えてる?」
「それ聞いちゃう?黙秘権行使で。でも、こーちゃんから貰ったのは一字一句覚えてるよ。手紙読んで、こーちゃんに会いに行こうとしたのももう4年前かぁ」
 以前スイに聞いた、誕生日に家出して島に帰ってこようとした話。あれはそういうことだったのか。
「昔の僕に教えてあげたいよね。今こんな感じでこーちゃんと東京で映画みたいな冒険してるって」
 スイは振り返って、俺にカメラを向けた。
「うん。本当に映画のワンシーンみたいだ。こーちゃんが紅星で、僕が翠星でよかったなって思う。東京で見えないのが僕の星じゃなくてこーちゃんの星だったらきっと耐えられなかったけど、こーちゃんはこんなに眩しい」
 シャッター音の残響と蝉の声が共鳴して、耳に残った。

 線路の終着点に俺たちはたどり着いた。そこには鉄の柵があって行き止まりになっているだけでゾンビが出てきそうな建物はなかった。鉄の柵は越えられそうにない。持ってきたスコップで地面を何か所か掘ってみたけれど、当然死体も埋蔵金も何も出てこなかった。
 日本中の少年少女のあてのない冒険の結末はこんなものの方が多いのだと思う。子供はそんな結末にがっかりして、大人になってから道中の時間こそが宝物だったと気づくものなのだろう。でも、大人と子供の狭間にいる俺たちにはもう分かっていた。
 未来の少年少女のために埋める宝物も持ち合わせていない。だから、その代わりにスコップの先っぽで地面に一番大切なものの名前を書いた。
「裁きのズベン・エス・カマリ」
 スイ、スイと作ったスターワールド、スイと見た星空。俺の一番の宝物だ。
「軍神アンタレス」
 スイも同じように、俺の分身の名前を書いて、その隣にデフォルメイラストを添えた。
 冒険のゴールに自分たちの手で描いた宝物。それをおそろいのカメラにおさめる。10年越しの冒険の夢が最高の形で叶った夏。

 この夏があったから俺たちは何にだってなれるし、どこへだって泳いでいける。