12月、ホームルームで進路希望調査票が配られた。その話題は何となく避けながら、俺たちは裏山に行った。今日はふたご座流星群が極大を迎える。ただ、なんとなくモヤモヤしていた。先にしびれを切らしたのはスイだった。
「こーちゃんはどうするの?」
「俺は兄貴と同じ北海道の大学一応受けるけど、この間の模試E判定だしたぶん無理だろうな。下宿先のじいちゃんの家から通える大学そこしかないんだよ。本土で一人暮らしも金かかるから、たぶん父さんの会社に就職する。スイはどうすんだよ」
 スイほどではないにしろ、兄は俺より遥かに勉強ができる。お兄さんを見習いなさいと言われた回数は数えきれない。そんな学校に俺が受かるわけがない。スイなら左手で問題を解いても余裕で受かるだろうけれど。
「嫌だ、言いたくない」
「今言っても言わなくても、どうせ進学先はいつか決めなくちゃいけないだろ」
「……東大」
 東大と聞いて、コーラを吹き出した。日本一頭のいい大学に友達がいくなんてフィクションの中だけの出来事だと思っていた。
「マジで?」
「中学辞めた時と島に帰ってきた時の2回お母さんに言われてるんだ。学校辞めてもいいけど、あなたをいじめた人たちよりいい大学に行って見返してやりなさいって。その人たちが内部進学で行く大学よりもいい大学ってもう東大くらいしかないし。たぶん東大じゃないと学費出してくれないと思うんだよね」
「親がどうとかじゃなくてさ、スイはどうしたいんだよ」
「宇宙工学の勉強ができれば大学自体はどこでもいいと思ってる」
「どこでもいいで東大って……お前そんなに頭良かったの?」
 スイの頭がいいことは分かっていたけれど、俺ほど成績が悪いとどれくらいテストで点数を取っていればどれくらい頭のいい学校に受かるのかという感覚がいまいちわからなかった。
「一応、合格圏内」
「マジかよ」
「でも行きたくない」
 転校してきたばかりの頃のような怯えた目で言う。
「東京が、怖い」
 俺は行けよとも行くなよとも言えなかった。「夢なんだろ、行けよ」と言いたかったけれど、スイが一人ぼっちで過ごした東京の3年間を知っているからそんな無責任なことも言えなかった。全国から有能な人間が集まる東京でまともに就職できる自身もないし、かといってどこでもいいならと北海道に一緒に行くには学力が足りなかった。
「何か言ってよ、こーちゃん」
 小学生の時、東京に行きたくないと泣いたスイに対して何というのが正解だったのか、今でもよくわかっていない。逆に、今だから分からなくなった。
「こーちゃんがいないと、生きていけない」