小5の1月、スイから東京に転校すると伝えられた。2月から東京の塾に通って名門私立中学に入れと母親が決めたらしい。スイは受験を望んでいなかった。プライドの高い母親のエゴだった。
 三大流星群のしぶんぎ座流星群に俺たちはお願いしに行った。
「お楽しみ会のクラッカーみたいだな」
「流れ星、お魚さんみたいだね。こんなにいっぱい泳いでる」
「確かに。“空の魚”だったら、“軍神アンタレス”と“裁きのズベン・エス・カマリ”のお願いだったら聞いてくれるかもしれないよな」
 空を泳ぐ魚の群れに向かって手を伸ばし、俺たちは叫び続けた。
「こーちゃんと離れたくない」「スイと離れたくない」
 でも、何度叫んでも流れている間に3回唱えるなんて不可能だった。
「お魚さん捕まらないね」
 スイが切なげにつぶやいたその時、少し動きがゆっくりな流れ星が見えた。スイはそれを捕まえようとして身を乗り出し、バランスを崩して柵の外側に落ちた。俺は斜面を滑り落ちそうになったスイの腕を慌てて掴んで引き上げた。

 そういえばそんなこともあった。しぶんぎ座流星群に一緒にお願いをしたことは覚えているけど、なんとなく見ていて危なっかしいスイを助けるのはいつものことだったから、命を救ったという認識はなかった。
「死にたくなった時も、こーちゃんに助けてもらった命だから絶対自殺はしないって思えたんだ。だから、今僕が生きてるのはこーちゃんがいたからだよ。ありがとう」
 あの頃と同じ澄んだ目で俺を見るスイがいつまでも笑っていられますようにと空の魚たちに人知れず願った。