土日の間ずっとスイの家に居座ってもスイのおばあさんは迷惑がるどころか喜んでくれていた。小6の時に東京で買ったという本物のビーストカードやゲーム機を貸してもらって休みの間中遊んだ。
「悪い夢見ないようにいっそ徹夜しちまうか?」
夜通し星を見ながらしゃべった。
「小学校の時、1度だけ死んだお父さんに会ったことあるんだ」
霊感の類の話は初めて聞いた。しかし、スイの言うことを疑う気は微塵もなかった。
「もしかしたら、流れ星が連れて来てくれたのかも。お父さんにこーちゃんのこと話したら、いい友達だなって言ってくれた」
「いい親父さんだな。今度会ったらありがとうございますって伝えといてな」
「こーちゃん、こんな突拍子もない話、信じてくれるんだね」
「当たり前だろ」
スイは嘘をつかない。多少隠し事をすることはあっても、嘘をつくことはない。誰より誠実な奴だと分かっている。
「広田って門倉翠星?」
「あいつ何で戻ってきたの?」
「何で苗字変わったの?」
勘の良い誰かが気づいたようで、土日の間に南小出身のメンバーから次々と俺に質問メールが来た。スイに見られないようにこっそり「詮索禁止」と返信した。俺がこう言えばみんな騒ぎ立てたりしないだろう。
「いつでも遊びに来てね」
日曜日の夕方、帰り際におばあさんは言ってくれた。本当にいい人だ。
月曜日の朝、スイを迎えに行くと浮かない顔をしていた。
「僕が東京から逃げてきたって南小のみんなはもう気づいてるよね、情けないなぁ……」
「気づいてないんじゃね?俺とよく遊んでたやつら、中卒で就職したか頭いい方の高校行ったよ。島外に引っ越してったやつも多いし」
「そうなんだ……僕、今度こそうまくやっていけるかな」
「俺といれば大丈夫だよ。そんなに悪いことばっかり起こらないって。人間ってみんな幸せと不幸の総量は同じなんだから。『ビーストカード』でも言ってたろ?」
アニメ『ビーストカード』の主人公の台詞を引用する。
「スイはさ、今まで色々あったぶんこれから幸せになるってことなんだよ」
「その理論だと、僕たぶんこーちゃんに出会った段階で一生分の幸運使い切ってる気がするけど」
「そういう照れることさらっと言うなよ」
俺が笑うと、スイもつられて笑った。
「でも、俺もスイと友達になるのに運使ったけどそれ以外でも強運バリバリ現役だから、少なくとも俺と同じくらいはいいことあるって! ほら、顔上げろよ」
スイの肩に手を回して歩く。
「お前さっそく転校生舎弟にしたん? やっぱ紅星パネエわ」
悪友に煽られるが、大声で宣言する。
「舎弟じゃねーよ、親友だ。バーカ」
俺のクラスに“深海紅星の親友”に危害を加えるような空気の読めない奴はいない。俺の宣言でスイも多少安心できたのか、金曜より顔色がいい。
昼休みに屋上で弁当を食べながら聞いてみる。
「今日、放課後どうする?」
「普通の高校生って放課後どこにいくの?」
「俺はゲーセン行くか誰かの家にたまってることが多いよ。人によるし、普通とかねえって」
スイを傷つけないように言葉を選んだ。お前はおかしくないと言いたかった。スイの顔をうまく見れなくて視線をそらした先にあったスイの弁当箱に入った卵焼きがやけにおいしそうだった。
「行ってみたいな、たぶんすごく下手だけど」
スイはぼそっとつぶやいた後、俺の方を見る。
「じゃあ、今日早速行くか?」
俺が誘うとスイの顔が分かりやすく明るくなった。そういえば、子供の頃はお金がかかるような場所は2人ではいけなかった。そういう場所に友達同士で行けるのは親同士が仲良しの場合だけだ。
「こーちゃん、これあげる」
スイが俺の弁当箱に卵焼きをのせてきた。
「何だよ、急に」
「こーちゃんずっと卵焼き見てたし……」
どうやら俺は昔のことを思い出す時、やや下に目線を向ける癖があるらしい。もっとも、昔のことを思い出す前は単純に卵焼きが美味しそうだなと思って見ていたけれども。確かにスイのおばあさんの料理はおいしかったけれども。
「じゃあ、俺の唐揚げ1個やるよ」
「え、いいの?」
「お前唐揚げ好きだったじゃん」
小学校の頃、給食が唐揚げの日は2人で朝からテンションが高かった。
「誰かとおかず交換するの初めてだ」
スイは嬉しそうに笑った。卵焼きは美味しかった。
放課後、ゲームセンターに行った。エアホッケーや格ゲーからUFOキャッチャーまで一通りやった。スイは元々器用だから飲み込みが早くて、少し教えただけでどれもすぐうまくなった。
ドラマやアニメで見た東京の遊戯施設はこんな田舎の古い遊戯施設の何倍も大きくて、電飾がキラキラしていた。こんなちっぽけな場所なのにスイは楽しそうだ。
「こーちゃん、記念に写真撮ろうよ」
スイがプリクラのコーナーに行こうとするのを慌てて止めた。
「プリクラは男だけで入っちゃいけないんだよ」
「え?そうなの?うわぁ、ごめん」
「危ねぇ。こんなことで補導されたらさすがに恥ずかしすぎる」
スイは慌てて後ずさりした。
「慌てすぎだよ。近づいただけで捕まったりしねえって」
俺たちは顔を見合わせて笑った。普通の高校生の、普通の青春。止まっていた俺たちの時間が動き出した。
「悪い夢見ないようにいっそ徹夜しちまうか?」
夜通し星を見ながらしゃべった。
「小学校の時、1度だけ死んだお父さんに会ったことあるんだ」
霊感の類の話は初めて聞いた。しかし、スイの言うことを疑う気は微塵もなかった。
「もしかしたら、流れ星が連れて来てくれたのかも。お父さんにこーちゃんのこと話したら、いい友達だなって言ってくれた」
「いい親父さんだな。今度会ったらありがとうございますって伝えといてな」
「こーちゃん、こんな突拍子もない話、信じてくれるんだね」
「当たり前だろ」
スイは嘘をつかない。多少隠し事をすることはあっても、嘘をつくことはない。誰より誠実な奴だと分かっている。
「広田って門倉翠星?」
「あいつ何で戻ってきたの?」
「何で苗字変わったの?」
勘の良い誰かが気づいたようで、土日の間に南小出身のメンバーから次々と俺に質問メールが来た。スイに見られないようにこっそり「詮索禁止」と返信した。俺がこう言えばみんな騒ぎ立てたりしないだろう。
「いつでも遊びに来てね」
日曜日の夕方、帰り際におばあさんは言ってくれた。本当にいい人だ。
月曜日の朝、スイを迎えに行くと浮かない顔をしていた。
「僕が東京から逃げてきたって南小のみんなはもう気づいてるよね、情けないなぁ……」
「気づいてないんじゃね?俺とよく遊んでたやつら、中卒で就職したか頭いい方の高校行ったよ。島外に引っ越してったやつも多いし」
「そうなんだ……僕、今度こそうまくやっていけるかな」
「俺といれば大丈夫だよ。そんなに悪いことばっかり起こらないって。人間ってみんな幸せと不幸の総量は同じなんだから。『ビーストカード』でも言ってたろ?」
アニメ『ビーストカード』の主人公の台詞を引用する。
「スイはさ、今まで色々あったぶんこれから幸せになるってことなんだよ」
「その理論だと、僕たぶんこーちゃんに出会った段階で一生分の幸運使い切ってる気がするけど」
「そういう照れることさらっと言うなよ」
俺が笑うと、スイもつられて笑った。
「でも、俺もスイと友達になるのに運使ったけどそれ以外でも強運バリバリ現役だから、少なくとも俺と同じくらいはいいことあるって! ほら、顔上げろよ」
スイの肩に手を回して歩く。
「お前さっそく転校生舎弟にしたん? やっぱ紅星パネエわ」
悪友に煽られるが、大声で宣言する。
「舎弟じゃねーよ、親友だ。バーカ」
俺のクラスに“深海紅星の親友”に危害を加えるような空気の読めない奴はいない。俺の宣言でスイも多少安心できたのか、金曜より顔色がいい。
昼休みに屋上で弁当を食べながら聞いてみる。
「今日、放課後どうする?」
「普通の高校生って放課後どこにいくの?」
「俺はゲーセン行くか誰かの家にたまってることが多いよ。人によるし、普通とかねえって」
スイを傷つけないように言葉を選んだ。お前はおかしくないと言いたかった。スイの顔をうまく見れなくて視線をそらした先にあったスイの弁当箱に入った卵焼きがやけにおいしそうだった。
「行ってみたいな、たぶんすごく下手だけど」
スイはぼそっとつぶやいた後、俺の方を見る。
「じゃあ、今日早速行くか?」
俺が誘うとスイの顔が分かりやすく明るくなった。そういえば、子供の頃はお金がかかるような場所は2人ではいけなかった。そういう場所に友達同士で行けるのは親同士が仲良しの場合だけだ。
「こーちゃん、これあげる」
スイが俺の弁当箱に卵焼きをのせてきた。
「何だよ、急に」
「こーちゃんずっと卵焼き見てたし……」
どうやら俺は昔のことを思い出す時、やや下に目線を向ける癖があるらしい。もっとも、昔のことを思い出す前は単純に卵焼きが美味しそうだなと思って見ていたけれども。確かにスイのおばあさんの料理はおいしかったけれども。
「じゃあ、俺の唐揚げ1個やるよ」
「え、いいの?」
「お前唐揚げ好きだったじゃん」
小学校の頃、給食が唐揚げの日は2人で朝からテンションが高かった。
「誰かとおかず交換するの初めてだ」
スイは嬉しそうに笑った。卵焼きは美味しかった。
放課後、ゲームセンターに行った。エアホッケーや格ゲーからUFOキャッチャーまで一通りやった。スイは元々器用だから飲み込みが早くて、少し教えただけでどれもすぐうまくなった。
ドラマやアニメで見た東京の遊戯施設はこんな田舎の古い遊戯施設の何倍も大きくて、電飾がキラキラしていた。こんなちっぽけな場所なのにスイは楽しそうだ。
「こーちゃん、記念に写真撮ろうよ」
スイがプリクラのコーナーに行こうとするのを慌てて止めた。
「プリクラは男だけで入っちゃいけないんだよ」
「え?そうなの?うわぁ、ごめん」
「危ねぇ。こんなことで補導されたらさすがに恥ずかしすぎる」
スイは慌てて後ずさりした。
「慌てすぎだよ。近づいただけで捕まったりしねえって」
俺たちは顔を見合わせて笑った。普通の高校生の、普通の青春。止まっていた俺たちの時間が動き出した。