夜中、物音で起きるとスイが震えながら咳き込んでいた。
「ごめんね、起こしちゃって」
発作のようなものらしい。中2の時に、極度のストレスでPTSDを発症したとのことだった。
「中学の時の夢見ちゃってさ、こういうこと、よくあるんだ」
幸運体質も不幸体質も遺伝する。偏差値75の名門校でもトップクラスの成績を誇るスイも非科学的な事実を受け止めざるを得なかった。
スイの実の父親は、母親との入籍直前に落雷事故で亡くなった。落雷事故で死亡する確率と隕石が当たる確率はほぼ同じらしい。
何百万分の一の確率を引き当ててしまう不幸体質のサラブレッド。何度こーちゃんの家に電話をかけても繋がらないタイミングの悪さ。クラス替えでは結局いじめの主犯格と同じクラスになった。
連絡が取れなくなったこーちゃんとの繋がりは、ボロボロになるまで何百回も読み返した手紙だけ。
「助けてくれなくていいから、一目だけでも会いたいなぁ」
流れ星が見えない夜でも、かろうじて1等星のアンタレスだけは見えた。夜空を見上げればこーちゃんがいる。昼間も星が見えればきっと笑って学校に行けるのに。
空のお魚さん、空のお魚さん、こーちゃんに会いたいです。流れ星が、空の魚が見えないから、“軍神アンタレス様”に代わりに祈った。空の魚の王様なら、流れ星の代わりに願いを叶えてくれるから。
叶わないと知るたびに下方修正されていった。明日学校に行ったら全部解決していますように、明日1日だけでも殴られませんように。殴られる回数が1回でも少なく済みますように。
9月25日、14歳の誕生日にスイは雷雨の中、突発的に家出をした。島行きの船に乗るつもりだった。後先は考えていなかった。ただ、どこまでも神様に嫌われた少年は船には乗れなかった。台風でその日すべての便が欠航した。
ショックのあまり波止場で過呼吸を起こしたところを保護された。母親はようやく事態に気づき、最終的に転校することになった。対人恐怖症のせいか、転校先の公立中学も受験した名門私立高校もすぐに不登校になった
家族会議の末、仕事が忙しい母親と再婚相手の代わりに島に住む祖母がスイの面倒を見ることになった。偏差値の低い方の高校にしか空きがないことに母親は不満を漏らしたが、再婚相手が大学受験で頑張ればいいと助け舟を出してくれたらしい。以上が、スイがここに戻ってきた顛末だ。
*
「東京ってね明るすぎて、僕の星は全く見えないんだ。ズベン・エス・カマリって三等星だからさ。どこにも居場所なんてなかった。僕も、星みたいに消えたかった」
「あるよ。スイの星」
窓の外を指さす。この島の夜空は綺麗だ。俺の赤い星の近くにスイの緑の星がある。
「ここにちゃんと、スイの居場所はあるんだよ」
スイが堰を切ったように泣きだす。
「ごめん、すぐ泣きやむから」
「謝んなよ。いくら泣いてもいいから」
スイを抱き寄せて震える背中をさする。俺にもたれかかるスイの体はあまりに細くやつれていて、胸が痛んだ。今度こそ絶対に守ってやると強く誓った。
「俺がスイの居場所になるから」
「ごめんね、起こしちゃって」
発作のようなものらしい。中2の時に、極度のストレスでPTSDを発症したとのことだった。
「中学の時の夢見ちゃってさ、こういうこと、よくあるんだ」
幸運体質も不幸体質も遺伝する。偏差値75の名門校でもトップクラスの成績を誇るスイも非科学的な事実を受け止めざるを得なかった。
スイの実の父親は、母親との入籍直前に落雷事故で亡くなった。落雷事故で死亡する確率と隕石が当たる確率はほぼ同じらしい。
何百万分の一の確率を引き当ててしまう不幸体質のサラブレッド。何度こーちゃんの家に電話をかけても繋がらないタイミングの悪さ。クラス替えでは結局いじめの主犯格と同じクラスになった。
連絡が取れなくなったこーちゃんとの繋がりは、ボロボロになるまで何百回も読み返した手紙だけ。
「助けてくれなくていいから、一目だけでも会いたいなぁ」
流れ星が見えない夜でも、かろうじて1等星のアンタレスだけは見えた。夜空を見上げればこーちゃんがいる。昼間も星が見えればきっと笑って学校に行けるのに。
空のお魚さん、空のお魚さん、こーちゃんに会いたいです。流れ星が、空の魚が見えないから、“軍神アンタレス様”に代わりに祈った。空の魚の王様なら、流れ星の代わりに願いを叶えてくれるから。
叶わないと知るたびに下方修正されていった。明日学校に行ったら全部解決していますように、明日1日だけでも殴られませんように。殴られる回数が1回でも少なく済みますように。
9月25日、14歳の誕生日にスイは雷雨の中、突発的に家出をした。島行きの船に乗るつもりだった。後先は考えていなかった。ただ、どこまでも神様に嫌われた少年は船には乗れなかった。台風でその日すべての便が欠航した。
ショックのあまり波止場で過呼吸を起こしたところを保護された。母親はようやく事態に気づき、最終的に転校することになった。対人恐怖症のせいか、転校先の公立中学も受験した名門私立高校もすぐに不登校になった
家族会議の末、仕事が忙しい母親と再婚相手の代わりに島に住む祖母がスイの面倒を見ることになった。偏差値の低い方の高校にしか空きがないことに母親は不満を漏らしたが、再婚相手が大学受験で頑張ればいいと助け舟を出してくれたらしい。以上が、スイがここに戻ってきた顛末だ。
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「東京ってね明るすぎて、僕の星は全く見えないんだ。ズベン・エス・カマリって三等星だからさ。どこにも居場所なんてなかった。僕も、星みたいに消えたかった」
「あるよ。スイの星」
窓の外を指さす。この島の夜空は綺麗だ。俺の赤い星の近くにスイの緑の星がある。
「ここにちゃんと、スイの居場所はあるんだよ」
スイが堰を切ったように泣きだす。
「ごめん、すぐ泣きやむから」
「謝んなよ。いくら泣いてもいいから」
スイを抱き寄せて震える背中をさする。俺にもたれかかるスイの体はあまりに細くやつれていて、胸が痛んだ。今度こそ絶対に守ってやると強く誓った。
「俺がスイの居場所になるから」