日々は目まぐるしく過ぎていった。
 七瀬はあの日以来、練習にも顔を出さなくなった。
 それでも僕の役目は変わらない。僕は皆の要望には全て答えたし、可能な限りの変更は幾度も繰り返した。七瀬の分も必死に補って、できることなら何でもやった。
 そして気づけば修学旅行の二日前になった。ここまでは本当、一瞬の出来事のようだった。
 でも、そんな一番大切な時期に、僕の時間は失速した。朝の目覚めと同時、異様な体の重さに気づき、冬ならば妥当と思える寒さと、しかし冬には異常な火照りを感じた。
「嘘だろ……?」
 漏れた声が掠れた。ひどく喉が痛んだ。
 自覚した途端に、絶望と焦燥に襲われる。
「まだやる事が、沢山あるんだぞ……」
 それでも力は入らない。起き上がれない。
 体と思考に必死に足掻く。けれどついに目の前が暗くなり、意識が飛んだ。そして呑気にも、僕はそのまま夢を見た。
 場所は病院。それで母さんの夢だとわかった。母さんは看護師として病院で働いていた。だから僕は幼い頃、その病院の託児所で過ごしていることが多かった。
 母さんはよく働く人だった。だからこそ僕は読み聞かせのことを、母さんと過ごせる数少ない夜を印象的に覚えているのだろう。
 すると母さんの声が聞こえ始め、断片的な記憶が幾度か過ぎ去ると、突然、開けるように記憶が鮮明になって当時の感覚が蘇った。
 うつ伏せになり、頬に擦れる感触と匂いからしてシーツはリネン。部屋は暗いけれど、そこかしこで薄く色々な色が光っている。
「澄人、今日のことは内緒だからね?」
 そう母さんの声が聞こえるけれど、僕はなぜか母さんとは反対側に向いている。
 母さんがゆっくりと読み聞かせを始める。内容は夢十夜の第一夜だった。
 ここで僕は気づいた。この夜が、夢十夜が僕と母さんの最後の記憶であったことに。
 気づいてしまった途端、隣にあった温もりが離れていく。『行かないで』とは声は出ず、代わりに僕の声は、夢十夜を読み上げている。
 隣には誰かが居た。でも、母さんじゃない。それでも僕は熱心に隣の誰かに向けて、夢十夜を読み聞かせていた——。
 底が抜けるような浮遊感で目が覚めた。
「七瀬っ!」
 頭を振る。嫌な夢をみた。と、思うけれど、意志とは裏腹に、僕はこの記憶のすぐ後に父さんからこう告げられたことを思い出した。
「母さんは、しばらく帰ってこない」
 そして、その『しばらく』が半年になったある日に、学校から帰ると家の玄関で見知らぬ女性と鉢合わせた。
 その翌日が授業参観。僕の絵が晒され、ウサギの髪留めの少女に現実を突きつけられる。
 そうだ。当時、癇癪を起こした僕は、
「母さんが居なくなったのは、父さんのせいだ!!」と、こう叫んだんだった。
 その一件の三日後くらいから、父さんは家に引きこもるようになった。
 でも、そう言ったことを悪いとは思えない。だってそうだろう? 父さんは母さんが居ない間に他の女を家に連れ込んでいたんだ。
 そんな節操のない人だから、母さんは愛想を尽かして出て行ったに違いない。
 怒りのまま力を込めると、体を起こせた。
 部屋はもう薄暗い。けれど目線の先の仏壇の祖父母の写真はうっすら見えて、そこから目線を少しずらせば、母さんが使っていた鏡台に、当時の化粧品がそのまま並んでいる。
 鏡台をじっと見つめていると、物音がした。音は隣の風呂場から。それで初めて、平日の夕方は父さんが起きている時間だと気づいた。
 急激に胃液が逆流してくる。鉢合わせることへの危惧じゃない。父さんが、なぜ今、風呂に入るのかを激しく疑問に思った。
 偶然じゃない。初夏あたりから、父さんは夕方に風呂に入ることが増えた。さらに、こういう日には、決まってリビングに来客用のグラスが使われた痕跡があった。
 夏以降、幾度かこれに気づくことはあった。でも、これまでは気にしないようにできていた。なのに、今日はなぜかダメらしかった。
 未だ頭は重い。だけれど僕はそれ以上考える事なく、制服とスクールバックだけを掴み、家を飛び出した。体調はまだすこぶる悪いけれど、このまま家に居る方が危険だと思った。
 その夜、僕は初めてアルバイトを無断欠勤した。こんな時にこそ役立つ時間潰しのバイトのはずだった。けれど、それが突然に空虚に感じられて、たまらなくなってしまった。
 だから僕はもう、近所の公園のベンチで体を丸めて眠ることしかできなかった。

 朝を迎えた。十二月十七日。修学旅行前日の朝だ。当然、一睡もできなかった。
 体調も当然に悪化。酷くふらつきもするけれど、自分を騙しながらでも学校へと向かう。
 でも学校に着いた瞬間、僕は頭をさらにバットで殴られるような衝撃を受けた。
「あんさ、この劇にあーしら要らなくない?」
 登校早々、数人の女子がそう言ってきた。
「いや、全員が一度は舞台に上るよう——」
「だかんさ、それが必要あんのって」
 彼女達は、あまり劇をよく思っていない子達だった。そういう人も中には居ることは把握していた。本番に近づくにつれ、そういう人達との乖離が深まることも理解はしていた。
 配慮もしてきた。でも、それが十分だったかと言われれば自信を持って返事はできない。ただ正直、今、彼女達にはこう思ってしまう。
「本番は明後日だ。今更そう言われても——」
「明後日だから言ってんでしょ。別にあーしら台詞も当日の仕事もないんだからさ、なんか下手に混じるだけ違和感じゃない?」
 言って、リーダー格と思われる女子が貧乏ゆすりを始める。そんな彼女を下手に刺激しない方が良いことくらい、僕もわかっている。
「逆に言えば、君達は一番楽な役回りだろ」
 なのに僕は、そう角が立つ言い方をした。
「何あんた、最近、浮かれてんじゃないの」
 言い争いがしたいわけでは決してない。なのに僕はまた、包み隠さずに言葉を——
「おっはよ〜う。久しぶりだねぇ明美ぃ」
 しかしそこで、ちょっとした懐かしささえ感じる声で七瀬が現れた。彼女は明美と呼んだ女子の前に立ち、彼女と手と手を合わせた。
「なになに? 何の話をしてたのかなぁ?」
 おちゃらけた様子で会話に水を差した七瀬の行動は、状況を察しての配慮だとわかる。
「いや、そういうのいいから。てか、小春は久しぶりすぎでしょ。あんた何してたの?」
 だけれど、明美達の怒りは収まらないようで、七瀬の繋いだ手は振り払われてしまった。
「休んじゃってたのはごめんなんだけどさ、でもまぁ、あと二日じゃん? それに明美達がいてくれれば花になるしさぁ?」
「あんさぁ小春。正直さ、あんま顔出してすらいない奴にそんなこと言われんのも癪だわ」
 明美の声は震え、髪をかき上げて、睨むような目を泳がせている。七瀬の登場は、完全に火に油を注ぐ結果となってしまっていた。
「委員になる時に言ってた、皆が楽しめる旅行にとかなんとか、その責任はどうしたのよ」
 だけれど、明美達は何もわかっていない。七瀬がどれだけ頑張ってきたか。責任なんて七瀬はとっくに十二分か、それ以上に果たしてきた。バイトがその顕著な例で、稼いだお金は全額、劇の費用に補填されている。
 だから七瀬が練習に来ないのは、よっぽどの理由があるに違いないというのに——、
「あはは。ごめん。実は……うん。なんかもう面倒臭くなっちゃって」
 けれど、直後に聞こえてきた七瀬の声は、そんな言葉を語っていた。僕は耳を疑った。今の声は本当に七瀬のものだったのか。確認するために七瀬に向く。悲しげな表情を隠し切れていない。僕にはそれがわかった。
「ちょっと待てよ。なんでそんな嘘を——」
「嘘じゃないよ。私って結構飽き性なんだ」
 また、七瀬は嘘を言った。
「ははっ何? 正体を表したってわけ? でも、それにしても小春。あんた人を巻き込んでおいて、その言い草は流石にないでしょ!」
 明美の手が伸びて、七瀬の肩を押す。すると、びっくりするくらい軽いもののように七瀬が倒れてくる。僕は咄嗟にそれを支えた。
「はぁ? 何? 今度はか弱いふりなわけ?」
 七瀬を抱えて、その異様な軽さに戦慄する。以前の映画館の時と、明らかに違う。そして改めて顔を覗き込めば、整った綺麗な顔立ちに、しかしはっきりと窶れが見てとれた。
 心臓が激しく鼓動する。焦燥感を自覚する。それがまた僕を混乱させた。
「何とか言いなさいよ!」
 そして、また七瀬に明美の手が伸びた時、僕はついに叫んでしまった。
「やめろ! お前に七瀬の何が——」
 しかし、続く言葉は途中で途切れる。
「もういいよ吉良くん。庇わなくていい。私なんかとは……もう関わらない方がいいよ」
 目前で七瀬がそう言う。表情には隠し切れない憂いが滲んでいる。でも彼女は今、本気で僕に『関わらない方がいい』と言った。この半年、関わってきた僕だからそれがわかる。
 なぜ七瀬は突然にそんなことを言い出すのか。なんというか、とにかく僕は色々とわからなくなってしまって、全身の力が抜けた。
 明美が嫌悪を交え、呆れたように言う。
「そこでもう芝居でもやってるわけ?」
「うん。私はずっと物語の中で演じてきた。でも、それはもう本当に、終わりなんだ」
 七瀬がそう返すのが聞こえると、明美達は「話になんない」と言い捨てて去って行った。
 静かになった廊下で、痛いくらいの静寂と寒さに心が震える。
「七瀬、なんであんなことを言ったの?」
「あんなこと? まぁ何であっても本音だよ」
「待って。今は二人だろ。何でまだ嘘を——」
「二人だから何だって言うの?」
 言って、七瀬が僕の瞳の奥を抉るように見つめる。僕は背骨が浮くような感覚になった。
「二人って、私達の関係って何?」
 冷たい声。今は彼女の手に小説はない。等身大の彼女がそう僕に問いかけてきている。
「七瀬?」
「答えられないなら、そういうことでしょ」
 続けてそう言った七瀬は、そのままここを去ろうとする。僕は焦って言った。
「どんな関係かは現時点だけで判断できないんだろ。なら大事なのは僕の感情だ」
 目線の先で七瀬が足を止める。
 僕は今だと覚悟して、続けて言おうとして、
「僕は君が……」でも、言葉に詰まった。
「君が何?」
 七瀬がこちらに向かずに言う。僕は幾度も口を開いた。でも肝心な言葉は声にならない。
「答えられないなら、答えはないんだよ」
 七瀬はそう言い、それからまた続けて、
「じゃあ、さよなら。私帰るから、委員も後はよろしく」と言って、立ち去った。
 その背中に僕は最後まで何も言えなかった。

 その後、僕はもうどこに行く気力もなかった。でも人の喧騒からは離れたかったから、人気のない校舎の隅の階段に腰をかけた。
 そのままぼうっとしていると、さっきの七瀬の言葉がひたすら頭の中で回っていた。
 今日の七瀬は変だ。いや、彼女はずっと変だった。でも、今日はその性質が変わった。彼女は決して自分から人を遠ざけるようなことは言わなかった。なのにさっきはなぜ?
 そう七瀬の謎を辿るように思考すれば、結局、最後にはどうしても例のアラームと、修学旅行までと定めた時間、その二つの時間制限に行き着いた。でも僕はそこに行き着くと、必ず思考を中断し、振り出しへと戻した。
 次第に辺りが暗くなり始めた。もうそろそろ学校での最後の劇練習が始まる頃だろう。
 帰ろうとは思わないけど、教室へは足が向かない。言い訳だけを必死に考えてしまう。
 劇は青葉がムードメーカーになって、統括は朝井が意欲を出してやってくれている。
 それなら僕が行かなくても……。
「二日連続でサボるのか」
 思考を断ち切る声。北島だとわかる。こういう都合が悪い時、なぜか彼はいつも現れる。
「別に僕が居なくたって練習は回るだろ」
「いつから義務になったんだよ」
「は?」
「甘えんな。劇はお前がやりてぇって言ってクラスを鼓舞したんだろうが」
「甘えて……ないよ」
「じゃあ何でさっき、何も言えなかった?」
 彼の言うさっきとは、時間の経過を加味しても朝の七瀬との出来事のことに違いない。
「お前は小春に甘えて縋ってんだよ」
「縋ってる?」
 その言葉の、今における意味を理解できない。なのに、突きつけられている気になる。
「お前、小春のことが好きなんだろ」
 瞬間、突きつけられていたものが刺さった気がした。心に鈍い痛みが滲んできた。
「でもお前の好きは甘えだ。小春に縋ってるだけ。『七瀬が好き』。それで自分を支えてる」
 動揺が体に染み渡る。粘っこい黒くぬるい液体が血管から身体中に広がっていく。
「お前は自分に言い訳をしないと、全てに理由を付けないと息ができない。そして勿論、その理由に自分自身の意思や願望を素直に当て嵌められないから、いつも息苦しい」
 聞いていると、本当に呼吸が乱れ始めた。
「だからそこに小春を、好きな人というフィルターを一つ用意して、そこにだけ目を瞑っておけば『七瀬のために』と言い聞かせるだけで、自由に心の声を聞いて、楽に息ができるんだ。そうして安心して、一番、大事なことから必死で目を逸らしてるだろ」
 北島がそこで一度言葉を切ったから、僕はやっと息を吸えた。そして呼吸を繰り返しながら、今の話を否定できる言葉を探って言う。
「北島、君の話には矛盾がある。だって——」
「あぁ。自分の意思や願望を素直に聞くことができないのに、なぜ『七瀬のために』と行動することができるのかって事だろ?」
 途中で奪われた言葉は、僕が言いかけた言葉と同じで……。そして彼は続けてこう言う。
「恋は意思や願望なんかより、もっと手前の制御できない場所で生まれてくるからだよ」
 北島が一拍挟み、少し悲しそうに笑う。
「だから盲目になるんだ」
 言われて、僕は頬に何かが伝うのを感じた。まさかとは思ったけれど、それは涙だった。その涙が何よりの証明だというのに、それでも僕は涙を隠すように拭って、惨めに足掻く。
「君が僕の何を知ってるっていうのさ」
 しかし、そう言った僕へ、北島は言葉ではなく、代わりに何かを取り出し、突き出した。
「悪いが、読ませてもらった」
 それは七瀬の小説だった。なぜ彼が? なぜ僕に? だけどより不可解なのは——。
「なぜ僕に『悪いが』と謝るんだろうって? 答えは、この小説に書かれている事のほとんどがお前についてだからだ。だから俺は、お前の事をお前が思う以上には知っている」
「言ってる意味が……わかんないんだけど」
「ここには十年前からの、お前と小春の事が書かれている」
「だから意味が——」
「わからないならそれを読めばいい。そこにはお前の疑問への答えの全てが書かれてる」
「読めって、それは七瀬のだ。勝手に……」
 そこまで言った時、言い終わるのを待つ北島の神妙な表情を見て、続く言葉を失った。
「あぁ。読めば責任が生まれる。お前は目を背けているもの全てに向き合わなければいけなくなる。ここにあるのはそんな過去だ」
 突拍子もない話に未だ理解が追いつかない。
 でも『責任』と『向き合うべきもの』は、僕がこの数ヶ月間ずっと考えないようにしてきた、七瀬に関する二つの時間制限と、そして……七瀬との勝負の答えなのだとわかる。
「もう、タイムリミットなんだよ」
 北島が僕から目線を外し、でもどこを見るともなく、ぽつりと言う。タイムリミット。僕の直前の思考と、彼の言葉が重なる。
 北島はまた僕に目線を戻して言った。
「俺とお前は似てるんだ」
 また何を言い出すのかと思ったけれど、直後、彼は手を音が鳴るほどに強く握り直して、
「でも一緒じゃない。俺じゃダメなんだ」
 と、そう呟くように言ってから、
「だからお前には甘えてほしくないんだ!! 勝手だってわかってるけど、それでもっ!!」
 と、何かに取り憑かれたかのように叫んだ。
 廊下に声が木霊する。彼の叫びは怒号に聞こえたけれど、反響して幾度か繰り返した声は、悲痛の叫びに聞こえた。
 そして自身の声の響きが止むと、北島はまた突拍子もなく僕に頭を下げてこう言った。
「頼む。お前が『七瀬小春』を救ってくれ」
 裏返ったその声を残し、北島は僕に背を向け、肩を震わせながらもう一度、「頼む」と掠れた声で言って、走り去って行った。

 しばらく僕は北島からノートを受け取り、握り直しもしないまま呆然と立ち竦んでいた。
 そして数分後、そんな停滞した僕を動かしたのは、背後からの冷たい突風だった。
「うわっ! さっぶぅぅぅ」
 振り返ると、朝井がこの廊下の唯一の窓を開けていた。彼女はそのままこう言った。
「劇の本番も寒いらしいからさ、最後の練習は同じような環境でやることにしたんだよ」
「あぁ、そう……」
「ははっ、反応薄ぅ。まだ体調悪い?」
 何も言えずにいると、朝井が続けて言う。
「まぁ無理が祟ったのかな。明日からに備えて、遠慮なく今日も休んだ方がいいよ」
 そう言って朝井がこちらを見る。
「劇なら、北島も手伝ってくれるしさ」
 朝井の複雑な表情から、さっきの僕と北島との出来事を察して言っているらしかった。
「北島は不良じゃないよ。不良が劇の衣装を全部縫うなんて、想像できないでしょ?」
「……え?」
「小春がやりたいって言った劇だけど、そこには吉良も居る。だから隠れて劇に協力できる形で、でも異常なくらい頑張ってんの」
 朝井は呆れて、でも優しい笑みを浮かべる。
「あんたらの関係にさ、私が口を挟むのも野暮だけど、でもこれだけ言わせて」
 そして今度は、僕をまっすぐ見て言った。
「北島は、小春のことになると本当に真剣。だからあいつがもし本気で何かを吉良に頼るようなことがあれば、受け入れろとは言わない。でも、一度ちゃんと考えてやってほしい」
 そう言い、朝井は僕にも笑いかけた。
「それじゃ、私は戻るね。あぁそれと、いつも小春と仲良くしてくれてありがとう」
 朝井は最後にそう言い残すと、小さく手を振って、そのまま教室へ向かって行った。
 朝井が居なくなると、窓からまた突風が吹き込んできた。
 すると丁度、僕の両手の上で小説のページが捲られて、目を落とすと、いつかのように、僕はまた、その第二章を目にした。
 気づくと、自然と目が文章を追っていた。
 そして数行も読み進めると、僕は、その内容に戦慄し、そして北島が言った通り、これまでの七瀬に関する謎の全てに合点がいった。
 そうして僕は、とても悲しい真実を知った。