参道を抜けた先に拝殿があった。ここへ手を合わせる者は誰もいないと、少女は淡々と事実を告げた。現の常識も何もないのだから、それがふつうなのだと理解しているつもりだ。


 ――でも。それを。さみしいと感じてしまうのは、どうしてなのでしょうか。





「……どうして?」

「人としての道理ですわ」

「道理、ですか」


 それはいかなる道理だろうか。
ここへ訪れる者に道理などない――失礼な見識だろうが、異端者ばかりなのだ。


 だから、こんな場所で手を合わせてくれるのは珍しい事だった。その真実が、少女には等しく嬉しかった。夏の花の香りを含んだ髪を風に舞わせながら、月伽が何かを思い出したようにあるものを差し出す。


「……これは?」

「電車の中でもらった飴ですわ。好みがありますし、無理に受け取る必要もないですけれど」

「――いえ。いただきます」



 季節は泡沫に過ぎず、些末(さまつ)な事でしかない。確かに美しいのだが、それだけに過ぎず。


 主は《心に深く沈む深淵こそが“真実”》と云う。いつも迷言や毒ばかり吐いて、時に真実を告げる。――奇人変人。幻想的な美しさを纏い、語るのがお好き。



 何故だろうか。月伽に、主を見てしまうのは。