繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。
もう一度、もう一度、もう一度、もう一度
まだ、まだ、まだ、まだ。
何度でも、何度でも、何度でも、何度でも。
いつまでも。
──────世の中には救いようの無い存在が多すぎる。
他人を蹴落として。
他人を踏み台にして。
他人を道具にして。
他人を使い潰して。
他人に押し付けて。
他人から搾取して。
他人を騙して。
他人を消して。
他人を始末して。
他人を殺して。
そんなゴミ同然のヤツらが、神にでもなったように鬼として超常の能力を得て生きている。誰かをつけ、害してきた者が善き人々の上に立ちまるで神にでもなった気で、掌の上にいる虫を潰すように簡単に殺す。
何故だ。
何故善き人が死に、奴らが生きている。
何故だ。
何故人の為に尽くした人が奴らに潰される。
何故だ。
俺の家族や仲間が死んだのに、奴らは生きている。
何故だ。
ある時、ふと思った。
本当に死ぬべきは誰だ?
誰を殺せば良い?
決まっている。
経験則で知っていた。
だから、殺すことにした。



 関ヶ原十郎が『繰り返し』を自覚したのは、2回目に家族が殺された瞬間だった。それまでは悪夢を見ていたとか思っていたが、それが紛れもない『一周目の世界の記憶』だと理解した。

 肉体も進化を遂げていた。
 強靭な肉体、超速再生、斬撃の鋭さなど『前の世界』で会得した全てを引き継いでいた。そして関ヶ原十郎は一度、悪魔になった事がある。
 不幸の元凶ともいうべき第六天魔王・波旬を倒した直後、『人の意思』に感動した第六天魔王・波旬が全ての血液を十郎へ送り込み、悪魔化させたのだ。

 なんとか自我を取り戻して人間として死ぬことができたが、その時に無意識に発動するようにタイマーセットしていたのが『魔王・時戻り』だった。
 死亡したら過去へ遡る能力。不老不死の肉体。人とは違う体内構造と強さ。何より鬼の弱点である太陽の克服。

(俺がこうして時間を繰り返すのは後悔があったからだ。戦いで散った人々、鬼に食われた人々、何より家族を守れない己を死ぬほど悔やみ、過去が変えられるならば、と願いつつも前を向いていた心が、その力が手に入ったことで具現化した、のだろう)

『時戻り』にはルールがある。
壱、自身の能力を話してはいけない。話したら死亡して初期地点まで巻き戻る。
弐、死亡したら初期地点まで巻き戻る。
参、引き継げるのは記憶と肉体のみ。
四、何が理由で解除されるか不明。

「前回は第六天魔王・魔王を倒しても初期地点まで戻されてしまったし、何か秘密が隠されているのだろうか?」

 関ヶ原は頭を傾げる。
 考えても考えてもわからない。しかし己は強いのだから、できるだけ悲しむ人を減らしたい、と思うのは関ヶ原にとって大切なことであり、同時に当然のことであった。

「何度死んで、何度やり直すことになっても、俺のやることは変わらない。その時に出来る最大限の力で人を助ける」

 繰り返すならば意味がないかもしれない。
 覚えているものはいないのかもしれない。
 だけど、それでも、関ヶ原十郎は見捨てない。
 たとえ無駄だったとしても。
 たとえ意味がなかったとしても。
 全部が無に返すとしても。
 何度でも、何度でも、何度でも、何度でも。
 関ヶ原は刀を振るい続ける。それが、永劫の時の流れを彷徨う事になったとしても『それでも』と言い続けて自ら助けられる人間を諦めるような真似は絶対にしない。
 狂気の沙汰だ。しかし相手は人外。ならば同じ土俵に上がらなければ勝負にならない。

「まずは、家族だ。俺の大切な……みんなを守る」

 関ヶ原は台所に行くと包丁を持ち出した。そして吹雪く山の中で、家から外へ出る。そこで過去に己の家族を惨殺した第六天魔王・波旬の到来を待つ。

「来た……」

 関ヶ原は匂いで第六天魔王・波旬が到来したのを確認する。

「何だ、貴様は」
「第六天魔王・波旬、俺は、お前を許さない。今は守るのが精一杯でも、いつか必ず首を切る」
「その肉体……まさか」
「零閃」

 ザンッ!! と気がつけば波旬の首が飛んでいた。そして波旬は己を最も恐ろしく追い詰めた男の姿を幻視する。

「怯ろ、竦め。俺は、お前の首を狙い続けるぞ。波旬」

 波旬は一目散に逃げ出した。相手にしてはいけない。そういう相手だと理解したのだ。
 関ヶ原は砕けた包丁を見て、ため息をつく。

「刀を見つけなきゃ戦えないな。さよなら、みんな。俺は、行くよ。未来で死ぬ人達を少しでも助けたいんだ。でも今日死ぬはずだったみんなを救えて良かった。また会おう」

 関ヶ原は己の家に別れを告げて悪魔滅却の旅へ出かけるのだった。