「手加減はしないわよ」
「あら怖~い。ゾクゾクしちゃう」
「シノア一人だけなんて良い度胸じゃない……良いわ。ぶっ潰してあげるよ、シノア!」

 三人の戦術機が唸り声を上げて、ぶつかりそうになったその瞬間、風間の隣りにいた真昼が動いた。

「ダ……ダメだよ、衛士同士で戦闘なんて!」


 右手に戦術機でガードして、左手で戦術機の柄を持ってガードする。

「なっ」
「私の間合いに入ってくるなんて……」
「気付かなかった」
「衛士同士でいけませんよ」

 三人の間に入り込む度胸と、それを悟らせなかったステルス性に、野次馬をしていた者達を驚愕させる。

「貴方、一体……」

 シノアが驚いたところで。
 りんご〜ん…………。
 鐘が鳴る。そして戦術機を持った生徒会長が現れる。

「遊んでいる場合ではありません。先程校内の研究施設から生体標本のデストロイヤーが逃走したと報告が入りました。出動可能な皆さんには捕獲に協力していただきます」
「おや、本当に緊急事態だね。シノア……見回りに行こう」
「はい!」
「このデストロイヤーは周囲の環境に擬態するとの情報があります。必ずペアで行動してください」
「……ふむ、擬態か。ならそこの一年生くんにもついてきてもらおうかな」
「へ?」

 真昼は時雨からの指名に驚く。それに柊シノアは時雨に問いかける。

「何故、彼女を?」
「三人の衛士がぶつかる間に入った度胸と、気付かせない能力、擬態を見つけるのに役に立つかもしれないだろう? それに一年生に貴重な経験を積ませるのも三年生としての役割だ」
「は、はい! お供します! 役に立ってみせます!」

 荒廃した町並みを眺めながら、夕立時雨、柊シノア、一ノ瀬真昼は歩いていた。

(彼女さんさえいなければ時雨お姉様と二人っきりだったのに)

 少し残念に思いながら、柊シノアは警戒しつつ逃げ出したデストロイヤーを探す。
 抉り取られたような建物を見て、真昼は呟く。

「すごい……これデストロイヤーと戦った跡ですか?」
「学院自体が海から襲来するデストロイヤーを積極的に誘引し、地形を利用した天然の要塞となることで周囲の市街地に被害が及ぶことを防いでいるんだ」

 夕立時雨は優しげな口調で真昼に教える。

「うわぁ、壁の間にできた大きい通路」
「切り通しといって1000年ほど昔に造られた通路よ」

 シノアも、真昼の新人教育に手を貸す。
 崩壊した地理で、草木に覆われた場所で時雨は汗を拭う。

「暑いな……それに随分と歩いたけど発見はなし、か。こちら側にはいないのかもしれないな」
「何もいませんね。もう少し奥へいきますか?」

 にゅるり、と瓦礫の隙間からデストロイヤーが顔を出した。

「う、うわっ」
「戦闘開始ッ!」
「了解です!」

 時雨とシノアは一気にデストロイヤーへ近づき攻撃を加える。
 真昼も参加しようとして、自身の戦術機を引っ張り出す。そして使おうとして。

「動かない!?」
「……っ! シノア、一時撤退する! 百夢の研究所から逃げ出した個体だ! 何かあるのかも知れない! 真昼が戦術機を使えない以上、戦闘継続は危険だッ!」
「あの子、戦術機を!? 全く!」

 時雨は真昼をお姫様抱っこして、シノアがデストロイヤーを蹴り飛ばして撤退した。
 その先で、真昼はシノアに問い詰められていた。

「あなた戦術機も使えないで、一体何をするつもりだったの!?」
「ごめんなさい私……」
「いいえ。真昼を、そこまでの初心者と見抜けなかった僕との責任だよ」
「時雨お姉様は彼女に甘すぎます! 自重すべきでした! 彼女が!」

 真昼はなんとも言えない表情で、俯くだけだった。

「時雨お姉様……どうして彼女に入れ込むんですか? 何か、あるんですか?」

 シノアは、不安そうな表情で時雨に問いかける。時雨は黙って真昼を抱きしめて、頭を撫でる。

「理由はある。真昼の潜在的な能力が僕と似ているものを感じた。だから気になるんだ。決してシノアを蔑ろにするんけじゃない。安心して」
「は、はい」
「まるで、目をつむって」
「はい」

 時雨は少しだけシノアにキスをする。
 真昼はその光景に顔を赤くする。シノアが見てない場所で、時雨は指を立てて口につけ「しー」という体勢を取る。

「さて、シノア。真昼に戦術機の契約の仕方を教えてあげて」
「はい」

 シノアが真昼の方へ行った後、時雨は戦術機を持って周囲を警戒する。

【壊したい】

 脳に響く声に時雨は、顔をしかめる。

【犯したい、壊したい、殺したい】

 時雨は無視する。しかしその内なる声は大きくなる。

【壊せ、壊せ、壊せ、破壊しろ】

「…………ふぅ。しかし、暑いな」

 ドクン、と胸打つ度に己の欲求が強くなるのを感じる。内なる自分の声に圧し潰されないようにしながら時雨は戦術機を強く握る。