未明の頃に……

 私は出産を機に『貴蝶妃』と呼ばれるようになった。

 何十年と生きていると、名前なんて忘れてられてしまうものね。

「お母様!またお父様のところに行きましょう!」
「おい、咲妃。母上はお忙しいのだぞ?」
「ふふ。大丈夫よ、蝶貴。さあ行きましょう、2人共。」

 屋敷の敷地内の森、その奥には大きな林檎の木と静かに佇む2つの墓。

 ここに、ムウと咲人が眠っている。

 季節的に林檎が赤く色付いてみずみずしい香りを放っている。

 そういえば先日久方ぶりに街に出ると、咲人の生誕祭で、林檎祭りがやっていた。

 そう、もうこの国で林檎は禁忌ではない。

 まだまだ忌み嫌って捨てる人が多いものの、祭りを行うくらいだ。

 それなりの甘味類から料理も出来ている。

 ムウの話も真実が伝えられている。

 実を言うともう主人が亡くなってから200年は経っている。

 王も何代と重ね、その度に私が呼ばれる。

 何も父が隠居を始め、私が当主になったからだという。